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6.家畜の性に関する遺伝
ある特定の形質と性との間に関連がみられる場合がある。
X染色体上の遺伝子によって制御されている形質は性との関連が生じてくる。Y染色体には,性に関係ない形質を制御する遺伝子座はほとんどないが,X染色体は多くの形質に関わる遺伝子をもつ。
したがって,性連鎖とはX染色体(家禽ではZ染色体)の遺伝子によって制御される形質の遺伝についていうことが多い。
6-1.伴性遺伝
伴性遺伝とはホモ型の性染色体(哺乳動物ではX染色体,家禽ではZ染色体)上にある遺伝子によって起こる遺伝をいう。
家畜における伴性遺伝の良く知られている例として,X染色体連鎖のオレンジ毛(O遺伝子)と黒毛(o遺伝子)の遺伝がある。
〈ネコの毛色〉
ネコの毛色の遺伝子座には,オレンジ色(O)(または褐色,黄色,ママレードともいう)と黒色(o)の遺伝子がある。
X連鎖のo遺伝子を持つ黒ネコを純粋交配させると同じ黒ネコを生む。X連鎖のO遺伝子を持つオレンジネコも同様である。しかし,黒ネコとオレンジネコを交配させると,黒色,オレンジ色,さらには三毛の子ネコが生まれる。
三毛猫の毛色遺伝子についてはこちら |
それでは何故子ネコがすべて三毛猫ではないのだろうか? これは,毛色遺伝子と性の両方に影響をうけるためである。
すべての雌子ネコは三毛で,雄子ネコは母ネコの毛色,すなわちオレンジ毛か黒毛を示す。
これが,ネコの毛色がX染色体連鎖の遺伝子座によって支配されていることを示す証拠ともなる。
三毛ネコになるためにはオレンジ毛(O遺伝子)と黒毛の(o遺伝子)のいずれかをX染色体上にもたなければならない。したがって,三毛猫はX染色体を2本持つ雌ネコにのみ見られる。
雄ネコはX染色体を1本しかもたないので,毛色遺伝子座の遺伝子はいずれか1種類だけである(希ではあるが,XXYの三毛ネコの例が知れれている)。
毛色遺伝子座O/oはX染色体上にあるので,慣例的にXOとXoと表わす。雄ネコは母ネコからどちらの遺伝子を受け継ぐかによって,オレンジ毛(XO)または黒毛(Xo)となる。
もし,母ネコが黒毛(XoXo)で父ネコがオレンジ毛(XOY)であれば,息子ネコは黒毛(XoY)となる。つまり,毛色遺伝子座があるX染色体は母ネコから,Y染色体は父ネコから由来するからである。
もし,父ネコが黒毛(XoY)で,母ネコがオレンジ毛(XOXO)であると,息子ネコはオレンジ毛(XOY)となる。
また,娘ネコはヘテロ接合体で三毛(XOXo)となるので,この場合父ネコと母ネコのそれぞれの毛色とは関連がない。
雌の三毛ネコは交配相手の遺伝子型によって,いろいろな遺伝子構成の子ネコを生産する。
- すべての息子ネコは同じ割合で黒毛かオレンジ毛となる。
- 娘ネコの半数は三毛となり,他の半数は父ネコの毛色となる。
父ネコが黒毛だと,娘ネコの50%は黒毛となり,またオレンジ毛だと娘ネコの50%のオレンジ毛となる。
〈血友病〉
血液凝固因子が欠損した異常である。血友病はヒトとイヌで良く知られており,ウマとブタでも症例が報告されている。
X 染色体上の遺伝子で決定される形質は,女子では父親と母親の両方に由来する遺伝子の働き合いで決まり,男子では母親由来の遺伝子だけで決定される。Y 染色体上の遺伝子で支配される形質は男子だけに現れ,父親由来の遺伝子だけで決まる。
したがって,X,Y 両染色体上の遺伝子で支配される形質は二つの性において現れ方が違ってくる。このような遺伝の様式を伴性遺伝という。ヒトの血友病や色盲は X 染色体上の遺伝子によって決定される伴性遺伝の例である。
〈ニワトリの羽色〉
家禽で伴性遺伝を経済的な目的に利用した例がある。採卵鶏では雌雛のみが有用であり,肉用鶏も雌雄を別に管理するほうが効率的であるので,孵化した雛は雌雄鑑別が行われる。 しかし,ニワトリの生殖器官の形態から性鑑別するのは非常に難しい。伴性遺伝形質である羽毛色(羽色)が初生雛の産毛で判断できるので,これにより早期の性鑑別を行うものである。 |
この目的のために利用された形質のひとつに横斑がある。優性横斑遺伝子をもつ成鳥は羽毛に横斑を生じる。この優性遺伝子をもつ雛は頭部に淡い斑紋を生じる。
この斑紋は,劣性で横斑のない雛には見られない。この他,劣性金ざさと優性銀ざさ遺伝子も初生雛の産毛に特有の羽色が現われるのでこの目的のために用いられる。
いずれの場合でも,ホモ配偶子型(ニワトリでは雄)で劣性遺伝子が発現し,それ以外ではすべての雛が同じである。
性染色体(Z 染色体)上の遺伝子により支配される形質の遺伝を利用し初生雛の外観に性差を出現させた系統を自家性別系統 autosexing strain という。
たとえば,横斑プリマスロック種のメスと黒色鶏種のオスとを交配すると,その雑種第1代のオス雛はすべて横斑,メス雛は黒色となり,横斑の雛は頭部に白い斑点が認められるので区別できる。
伴性遺伝の形質には羽色のほか,脚の色,羽毛の生える遅速性などがある。卵用種として多く用いられる白色レグホーン種では羽色を用いる自家性別系統を作出できないので,羽性による系統が作出・利用されている。
6-2.従性遺伝
〈ヒツジの角〉
無角のサフォーク種と両性とも有角のドーセットホーン種を交配すると,F1ではオス子ヒツジは有角で,メス子ヒツジは無角となる(左図)。
この雑種F1はすべてヘテロであるはずなので,同じ表現型を示すはずである。
多くの種で無角遺伝子は優性であることが知られているが,ヒツジではメスにおいてのみ優性である。 オスでは角の発育が見られ,無角遺伝子はオスでは完全優性ではないと考えられる。
これらの結果は伴性遺伝では説明できない。
性差によってどうしてこのように違うのだろうか?
この例では,角の発達に,すなわち遺伝子が発現する経路に動物個体のホルモンの影響が関与している。
雄性ホルモンの影響によって,ヘテロ接合体でも角が発達し,一方雌ではホモ接合体でないと角は発達しない。純系のドーセットホーンの雌では,ホモ接合体であっても雄ほど立派な角は発達しない。
〈エアシャーの毛色〉
従性遺伝の別な例として,エアシャー牛の毛色がある。
この乳用種は褐毛と白毛の斑紋をもつ。褐毛の色合いは明るい赤から暗色のマホガニー色まで様々である。暗色の色調は優性遺伝子の影響と考えられるが,動物の性の影響もある。
オスではメスに比べ暗調となり,メスはホモ接合体で暗調となるが,オスではヘテロ接合体でも暗色となる。
エアシャー牛の毛色とヒツジの角の例では,精巣を除去(去勢)すると,暗調となる遺伝子の発現が抑制され,去勢オスではメスのような色調となる。
性ホルモンが表現型に影響していると疑われる場合に,去勢は古くから用いられている方法である。遺伝子の発現に重要な時期以前に去勢すると表現型の変化が見られる。
動物のホルモン状態は遺伝子が発現する場合の環境の一部である。ここで紹介した角性と毛色は,環境が表現型に影響する形質の例でもある。
〈ヒトの男性型脱毛症〉
F1世代(図a)とF2世代(図b)における遺伝子型比と表現型比を示す。
この対立遺伝子は一方の性では優性であり,他方の性では劣性である。したがって,ヘテロ接合体の親同士の結婚により(b),子世代の男性では男性型脱毛症と正常が3:1,女性では1:3の比率で発現する。
6-3.限性遺伝
一方の性の表現型だけに現れる遺伝様式をいう。例えば,Y染色体上の遺伝子は男性(オス)のみで発現する。
例:Y染色体の遺伝子など
- 男性化遺伝子SRY
- 精子形成に関わるDAZ遺伝子
- グッピーのまだらびれ
熱帯魚のグッピーは,オスにのみオレンジや黒,青などのカラースポットが見られる。オスは自分の体をメスに誇示して求愛するので,メスの配偶者選択による性選択によって進化したと考えられている。そして,これらの行動に関連する体の色彩と模様の多くは,Y染色体上にある複数の遺伝子によって支配されている限性遺伝を示す。
6-4.限性形質
前述の通り,伴性遺伝の形質はX染色体上の遺伝子によって支配され,従性遺伝の形質は常染色体上の遺伝子座によって支配されている。
これらと対比させるために表現を工夫すると,限性遺伝の形質はY染色体上の遺伝子に支配される様式といえる。本項目で述べる限性形質と混乱しないように。
限性形質は,一方の性に限定され表現型が発現する形質をいい,乳生産,産卵能力などで,量的形質として遺伝する。
限性形質はこれまで述べてきた性に関連する形質としては経済的に最も重要となる。乳用種や産卵鶏の経済形質はオスでは発現しない。
しかし,オスは種雄牛として利用されるためにこれらの形質に関する遺伝的な評価がなされている。したがって,家系や後代検定に基づいたオスの評価方法が必要となる(これについては後で詳しく述べる)。
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March 03, 2020