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メンデルの一因子交雑試験


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はじめに

Gregor Mendel ( 1822 – 1884 ) は 1856 年から 1866 年まで,修道院の庭 に エンドウを植え,これらの交配による後代を分析した。エンドウがこの実験に適していた。その理由は:

  • 次のように,明瞭な 質的形質 qualitative trait をもつ純系を育てるのに多くの品種が利用できた。
    • 種子の形状 ( 丸 と しわ )
    • 種子の色 ( 緑色 と 黄色 )
    • 鞘の色 ( 黄色 と 緑色 )
    • 茎の高いもの と 矮性のもの,さらに
    • この他の 3 つの質的形質
  • エンドウは通常 自家受粉 する。 メンデルはまだ熟していない花から雄しべを除去して,熟した雌しべに他の品種から取った花粉を授粉した。

最初の交雑試験

メンデル は丸種の純系品種にしわ種の純系品種を交雑した。

我々の解釈

両親 ( P 世代と表わす ) は純系品種である。すなわち,両親のそれぞれは種子の形状を制御する遺伝子座 ( 第 7 染色体 ) の対立遺伝子が ホモ接合体 ( 丸種 RR ,しわ種 rr ) である。

その結果

次世代 ( 雑種世代 ) で生じるすべてのエンドウは丸種であった。

我々の解釈

この F1 世代 のすべてのエンドウは遺伝子型 Rr をもつ。 減数分裂 によって生産されるすべての配偶子は第 7 染色体を 1 本受け継ぐ。すべての接合体は,1 つの R 遺伝子 ( 丸種の親から ) , ならびに 1 つの r 遺伝子 ( しわ種の親から ) を受け継ぐ。 丸種の形質が 優性 dominant なので,すべての種子の 表現型 phenotype は丸種となる。

P 配偶子 ( 丸種 )
    R R
P 配偶子
( しわ種 )
r Rr Rr
r Rr Rr

第 2 の交雑試験

メンデル は雑種第 1 代のエンドウを自家受粉させた。

その結果

雑種第 1 代にはなかったしわ種が全体の 25% の割合で再び生じた。

解釈

均等な R と r 配偶子の任意の組み合わせによって,雑種第 2 代 F2は,25% RR, 50% Rr ( これらの表現型は丸種 ), 25% rr ( 表現型はしわ種 ),が生じた。

  F1 配偶子
    R r
F1 配偶子 R RR Rr
r Rr rr

第 3 の交雑試験

メンデル はさらに, F2 世代の各形質のいくつかについて自家受粉させて,検討している。その結果:

  • F2 世代におけるすべてのしわ種からは,F3 世代でしわ種だけが生じる。
  • F1 世代の丸種の 1/3 ( 193/565 ) からは,F3 世代で丸種だけが生じたが,
  • これらの 2/3 ( 372/565 ) からは, F3 世代で両方のタイプの種子が生じた。比率は 3 : 1 であった。

解釈

F2 世代における丸種の 1/3 とすべてのしわ種はホモ接合体で,同じ表現型の種子だけを生産する。

しかし, F2 世代の丸種の 2/3 は ヘテロ接合体 で,これらの自家受粉によって F1 雑種と同じ比率で両方の表現型の種子が生産される。

表現型比は近似する

各配偶子の融合は任意に起こる。写真の鞘 ( Cathie Martin,1990 年 1 月 12 日号 Cell ) は, 偶然にも 9 個の丸種と 3 個のしわ種をもっている。一般に,試料の数が大きくなれば偏差が小さくなるので,その比は理論的な推定値により近くなる。表には,メンデル の F1 エンドウ 10 個体の実際の種子の数を示す。それぞれの個体間で大きな偏差が見られるが,全体をまとめて見るとその比は 3 : 1 に近似する。

丸種 しわ種
1 45 12
2 27 8
3 24 7
4 19 16
5 32 11
6 26 6
7 88 24
8 22 10
9 28 6
10 25 7
合計 336 107

メンデル の仮説

メンデルは得られた結果を説明するために,次のような仮説を立てた:

  1. 生物には,特定の性質の発現を制御する 1 対の因子がある( 今日我々がいっている 遺伝子 に相当する )。
  2. 生物はこれらの因子を各親から 1 個ずつ受け継いでいる。
  3. それぞれは常に変化せず個々の単位として,世代を超えて受け継がれる ( F1 世代では丸種であったにも関わらず, F2 世代のしわ種は P 世代のそれと同じようにしわが見られる ) 。
  4. 配偶子が形成された時,この因子は分離し,各配偶子に単位として分配される。これが 分離の法則 と呼ばれている。
  5. もし生物にある性質に対して異なる因子がある場合には ( われわれは 対立遺伝子 とよんでいる ) ,1 つの因子が発現して,他の因子は全く発現しない。〈 優性形質 ならびに 劣性形質 と呼んでいる 〉。

検定交雑:メンデルの仮説を検証する

よい仮説は,いくつかの基準を満たすものである。 たとえば,

  • よい仮説は,観察された事実を適切に説明してくれる。
  • この基準を満たす仮説が 2 つ以上ある場合には,より単純なものが好まれる。
  • その仮説により,結果が予測できるはずである。

したがって,仮説に根拠がある場合には,ある条件での結果が推定できる。

メンデルは彼の仮説に基づき,まだ実行していなかった交雑実験の結果を予測した。すなわち,彼はヘテロ接合体の丸種 ( Rr ) をしわ種 ( rr のホモ接合体 ) と交雑し,この場合生産される 1/2 が丸種 ( Rr ) で,他の 1/2 がしわ種 ( rr ) となると予言した。

  F1 配偶子
    R r
P 配偶子 r Rr rr
r Rr rr

修道院の庭を訪れた人々には, ( 丸種としわ種の交雑に関して ) 上述した交雑と親 ( P ) 世代の交雑の違いが理解できなかったが, メンデル は,この時は丸種としわ種が 50:50 の割合で生産されるだろうと予言した。彼は交雑を実施し,106 個の丸種と 101 個のしわ種を収穫した。

このような交雑は 検定交雑 と呼ばれている。同一の表現型を示す遺伝子型が 2 つある場合に ( RR と Rr の場合のように ) 遺伝子型を “検定” するという意味である。

メンデルはここで止めなかった。

  • 彼は他の 6 つの質的形質をもつ品種同士を交雑し続けた。すべての場合の結果が彼の仮説を支持した。
  • 異なる 2 つの形質 をもつエンドウの交雑を行った。1 つの形質がそれぞれ独立して遺伝することを見出した。この結果,彼の 独立の法則 が出来上がった。
    しかし,彼は実に幸運であった。その理由についてはこちら

今日におけるメンデル の法則

メンデルが 1866 年に彼の調査結果を公表した時,ほとんど注意が払われなかった。その 34 年後,また彼の死後 16 年後の 1900 年になるまで彼の仕事の意義が明らかにされなかった ( その年に,3 人の研究者がそれぞれ独立に同じ法則を発見した ) 。したがって,今日の遺伝学の著しい発展は,20 世紀当初に始まったのである。

今日のメンデルの法則に位置付けはどうなっているであろうか? メンデルの法則の多くの例外が発見されているが,たとえば 2 つの例を示すと:

  • 多くの対立遺伝子の中には表現型に影響を及ぼすものがある。すなわち,完全優性ではない場合である。
  • 多くの遺伝子座は独立して遺伝するが,連鎖 linkage を示す場合がある。

彼の法則は依然として遺伝学の基礎を形成している。


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February 07, 2020

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