DNA 複製
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細胞が分裂する前に,細胞がもつ DNA すべてが複製されなければならない。真核細胞では,DNA 複製は 細胞周期 のS 期に起こる。
DNA 複製の進行:
- 二重らせんの一部が ヘリカーゼ helicase によって巻き戻される。
- DNA ポリメラーゼ DNA polymerase の分子が一方の ( 鋳型 ) DNA 鎖に結合し,これに沿って 3′ 末端から 5′ 末端に向けて,それを鋳型としてヌクレオチドの リーディング鎖 leading strand を組み立てながら移動を始める。こうして,その鋳型に相補的な DNA 鎖が新しく合成され,二本鎖となる。真核細胞では,DNA ポリメラーゼ d と呼ばれている。
- DNA の合成は常に 5′ から 3′ 方向に起こるので,別のタイプの DNA ポリメラーゼ ( 真核生物では,DNA ポリメラーゼ e ) がもう一方の鋳型 DNA 鎖に結合する。この分子は不連続的に短い DNA 鎖を合成していく ( 短い DNA 鎖は 岡崎フラグメント Okazaki fragments と呼ばれる ) 。
短い DNA 鎖が DNA リガーゼ DNA ligase によって次々と結合されていく。これを ラギング鎖 lagging strand と呼ぶ。
DNA 複製は “半保存的” に起こる
DNA の複製は:
- DNA の 2 本鎖のそれぞれの鎖が鋳型となり,
- その鋳型に相補的な鎖が新しく合成されることによって完了する。
この複製の様式は “半保存的” semi-conservative であると表現される。すなわち,新しく作られた DNA 分子は元の鎖と新しい鎖がより合わさっていることになる。
これは Watson と Crick によって示唆された DNA 複製の仕方であるが,その後メセルソンと スタール Meselson and Stahl の実験によってこのモデルが正しいことが証明された。
複製のスピード
前核細胞 prokaryote
大腸菌 ゲノムのような単一環状 DNA 分子は 4.7 x 106 個の塩基対を含む。
複製開始起点 は 1 ヵ所であり,その位置は一定である。 1 秒当たり約 1,000 個のヌクレオチドが複製されていき,40 分もかからず終了する。また,これらの過程は極めて正確に行われ( 修復機構もある ),109 個のヌクレオチドが組み込まれるうち 1 個のエラーが起こる程度である。つまり,大腸菌ゲノムは 1 つのエラーもなく複製されることの方が多いのである。
真核細胞 eukaryote
ヒトの染色体には平均して 150 x 106 個の塩基対があり,これらは 1 秒当たり約 50 塩基対の早さで複製されていく。もし各染色体の複製起点が 1 ヵ所しかないとすると,複製の完了には異常に長い時間を必要とすることになる。しかし実際には,染色体に沿って多くの複製起点が存在することがわかっており,培養細胞の DNA 複製期は約 7 時間程度である。
ある複製起点では S 期に先立ち複製が始まることがあるが,すべての過程は S 期が終了するまでに完了する。複製の完了が間近になると,新たに複製された DNA 鎖が会合し結合して,最終的に 2 本の新しい分子が形成される。
複製の制御
新旧の DNA 鎖ができあがるが,真核細胞はどのようにして既に複製された方とこれから複製される方を判断しているのだろうか?
ある実験: 細胞周期 の G2 期にある細胞を S 期の細胞と融合させると,S 期の核では DNA 複製が正常に進行するにもかかわらず,G2 期の核の DNA は再び複製を始めない。有糸分裂が完了するまで,新しく合成された DNA は再び複製ができないのである。
2 つの制御機構がこれまで分かっている。ひとつは 正 の制御で,他の 1 つは 負 の制御である。このように重複した機序をもつのは,完全なゲノムを正確に複製するためと考えられる。
DNA 複製の正の制御:ライセンシング
複製のために,各複製元を明確にしておく必要がある。
- 複製元認識タンパク複合体 Origin Recognition Complex of protein ( ORC ) – 複製過程を通して,DNA 上に存在する。
- ライセンシング因子 licensing factors と呼ばれるタンパク質 – 細胞周期の G1 期に核に蓄積する。この因子には:
- Cdc6 と Cdt1 – ORC に結合して, DNA を MCM タンパク質 で被覆するのに必要である。
- MCM タンパク質 – Minichromosome Maintenance protein ( 6 種類知られている ) で被覆された DNA のみが複製される。
- S 期で複製が始まると,
- Cdt1 と Cdc6 は ORC を離れ,
- MCM タンパク質が複製分岐点の直前で離れていく。
DNA 複製の正の制御:ゲミニン
G2 期核が少なくとも ゲミニン geminin と呼ばれるタンパク質をもつ。これは,新たに合成された DNA 上に MCM タンパク質が配列するのを妨げる( Cdt1 の働きを抑えると考えられている )。
細胞が 有糸分裂 mitosis を完了すると,ゲミニン が分解して, 2 個の娘細胞の DNA がライセンシング因子に反応できるようになり,そして次の S 期にそれらの DNA が複製される。
ある細胞は意図的に細胞周期を短縮して,分裂せずに S 期を反復することがある。これは 核内複製 endoreplication と呼ばれている。このような細胞が,有糸分裂せずに DNA 複製を可能にする仕組みについてはまだ分かっていない。 |
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February 05, 2020