Lactation.html

泌乳


このページの内容

泌乳 lactation は哺乳動物の繁殖にとって重要な生理現象の一つであり,雌の生殖周期の中で妊娠・分娩に続いてみられる。

泌乳をつかさどる 乳腺 mammary gland は哺乳動物に特有の器官で,副生殖腺の 1 つに分類される。 母畜は,その動物種に最適な質と量の乳汁を分泌し哺育する。

畜産の分野では,この泌乳現象を人類の食糧供給のために利用しようと試み,大量の乳を生産する乳用家畜を作り出した。

乳汁は血液中の前駆物質やエネルギー源,水およびその他の微量成分を利用して,十分に発育した 乳腺細胞 によって作られる。
 

1. 泌乳量と泌乳曲線

泌乳曲線泌乳は,

  • 乳汁分泌 milk secretion
    乳腺細胞内における乳汁成分の生成と,その乳汁成分が乳腺細胞から腺胞腔中に分泌されること
  • 乳汁移動 milk removal
    乳汁が乳腺内圧の増加なしに乳槽より流下することと,オキシトシン により誘起された筋上皮細胞の収縮を伴った乳汁排出のこと

の過程からなる。

泌乳が開始すると,乳汁分泌量( または乳量,泌乳量 )は次第に増加し最高値に達し,その後乳量は徐々に減少する。乳量の変化を示す曲線を 泌乳曲線 lactation curve と呼ぶ(右図)。
 

2. 乳腺の構造

乳腺の構造乳腺は,実質と支質からなる:

  • 実質は
    • 乳腺胞 mammary alveolus, pl. alveoli とよばれる胞状部分
    • 乳管 mammary duct

    とからなる。

    • 乳腺胞の内側には一層の乳腺上皮細胞が並んでいる。この細胞で乳汁が生成される。
    • 乳腺胞は集まって “小葉-腺胞系” をつくり,乳管によって互いに結合されている。
    • 上皮細胞と基底膜との間に 筋上皮細胞 が存在し乳腺胞を網目状に包む。

     

  • 支質は実質を小葉 lobule や葉 lobe に分けるため,乳腺は “複管状胞状腺” の形態をとる。

乳腺胞が結合する乳管は次第に太くなり,ウシやヤギでは,いくつかの乳管が集まって太い導管となり 乳槽乳腺部 (にゅうそうにゅうせんぶ)と呼ばれる腔所に開口する。

この腔所は,乳頭内の 乳槽乳頭部 (にゅうそうにゅうとうぶ)と連絡し,ここから 1 本の 乳頭管 になって乳頭に開口する。開口部を乳頭管孔と呼ぶ。
 

3. 泌乳のホルモン調節機序

乳腺胞妊娠期間中に乳腺はその構造が完成し,分娩と同時に盛んな乳汁合成活動を始める。 乳汁分泌に必要なホルモンは,

ただし,動物種によってこれらの組合せは異なる。乳汁分泌開始の “引き金” となるのは,分娩前から分娩時にかけて起こる血中 プロジェステロン の消退である。

  1. プロジェステロンの血中よりの消退に伴い,
  2. 動物種に特有なホルモンに対する乳腺細胞の感受性が高まり( 受容体数が増す,またはホルモンに対する親和性が増して ),
  3. 乳汁分泌が開始する。

 

4. 誘起泌乳

未経産や空胎の動物において,ホルモン処理により分娩を経験することなく泌乳を起こすことができる。こうして起こした泌乳をとくに 誘起泌乳 induced lactation と呼んでいる。

ホルモン処理としては,エストロジェン 単独処理やエストロジェンとプロジェステロンの組合せ処理等がある。

 

5. 増乳

泌乳中の動物において,乳腺の乳汁分泌活動を増強し,その結果,乳量の増加を引き起こすことを増乳という。

泌乳中のウシに成長ホルモンを投与した場合などにみられる。なお,この様なホルモン処理は日本では行われていない。
 

6. 乳汁の移動

吸乳刺激と乳汁排出反射乳腺上皮細胞で生成された乳汁は腺胞腔に分泌され,細い乳管からしだいに太い乳管を満たすようになる。

吸乳や搾乳によって与えられた刺激( 吸乳または搾乳刺激 )に始まる神経・体液性反射によって,乳腺中に蓄えられた乳汁が体外に排出される。この反射を 乳汁排出反射 milk ejection reflex という。

乳汁排出反射は乳腺内圧の上昇を伴う。

右図の説明

  1. 乳頭や乳房に加えられた吸(搾)乳刺激は,脊髄,脳幹を通って視床下部に達する。
  2. この刺激により下垂体より オキシトシン が血中に分泌される。乳腺胞あるいは乳管壁に存在する筋上皮細胞はオキシトシンに反応して収縮する。
  3. このため乳腺内圧は上昇する。
  4. 乳腺胞や細い乳管にたまっていた乳汁は太い乳管へ運ばれ,
  5. 最終的に体外へ放出される。

 

7.ウシの初乳

ウシの初乳は母体の血液よりも免疫グロブリンに富み,新生子牛は 初乳 をとることによって免疫性を与えられ,種々の疾病感染に対し抵抗性を得る。

濃厚で黄色を帯び,異臭とわずかな苦みを有し粘度が高い。 化学組成はタンパク質,脂肪および灰分の含量が多いのが特徴である。

タンパク質ではカゼインが少なく,免疫グロブリン が多い。

初乳の ビタミン A 効力は常乳の10~30倍 あり,その他のビタミン類も多い。このように免疫および栄養の上から新生子牛に初乳を飲ませることは絶対必要とされている

なお,アルブミン,グロブリンが多いために加熱により凝固しやすく,分娩後 5 日以内の初乳は加工に使用してはならないことになっている。

初乳の成分はこちら

最初に戻る

メニューのページへ戻る

February 07, 2020

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です