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下垂体のホルモン

このページの内容
下垂体前葉

  1. 甲状腺刺激ホルモン ( TSH )
  2. ゴナドトロピン
  3. プロラクチン ( PRL )
  4. 成長ホルモン ( GH )
  5. 副腎皮質ホルモン刺激ホルモン ACTH

下垂体後葉

 


内分泌腺の模式図はこちら
視床下部と下垂体の位置を示す模式図はこちら

ヒトの場合,脳下垂体は間脳の視床下部から細い下垂体茎によってぶら下がり,頭蓋底の正中線上にあるトルコ鞍 ( ぐら ) の上にのっている。

重さ約 0.6 g ,前後長 8 – 9 mm ,幅 10 – 14 mm ,高さ約 8 mm の楕円体の内分泌器官で,他の脊椎動物の場合と同じく,由来を異にする 2 つの部分,

  • 前葉
  • 後葉

から成る。

下垂体のホルモンと機能


下垂体前葉 The Anterior Lobe


下垂体前葉からは数種類のホルモンが分泌されている。それらのすべては 視床下部 hypothalamus から分泌されるホルモンの支配を受けている。

すなわち,成長ホルモン,プロラクチン,副腎皮質刺激ホルモン,甲状腺刺激ホルモン,卵胞刺激ホルモン,黄体形成ホルモンである。
このほか最近の説ではリポトロピン,エンドルフィン,エンケファリンも分泌されるという。


下垂体ホルモンの機能

甲状腺刺激ホルモン
Thyroid Stimulating Hormone ( TSH )

TSH ( thyrotropin とも呼ばれる ) は糖タンパク質 glycoprotein で,

  • 89 個のアミノ酸のa サブユニット
  • 112 個のアミノ酸のb サブユニット

からなる。

a サブユニットは他の 2 つの下垂体ホルモン,FSH と LH のものと同じであることが分かっている。すなわち,b サブユニットが TSH の特異的な機能を与えていることになる。

TSH の分泌は,

名前が示すとおり,TSH は甲状腺を刺激して次のホルモンを分泌する。

  • チロキシン thyroxine ( T4 )
  • トリヨードチロニン triiodothyronine ( T3 )

これらは,甲状腺の細胞表面にある膜貫通型の G-タンパク質結合受容体 ( GPCR ) に結合して,生物学的な活性が誘起される。

甲状腺ホルモンは特定の標的器官はなく,全身の細胞膜を通過してその生物学的作用を発揮する。細胞の酸素消費量の増加,糖質,脂質,タンパク質の代謝促進,心拍出量の増加,神経の興奮,また成長,分化の促進をする。

オタマジャクシの変態を促進することは有名である。また多くの重要な酵素活性に影響を与え,生体には必須のものである。

自分自身の TSH 受容体に対する抗体ができてしまうことがある。これが結合した場合,細胞はホルモンが結合した時のように反応して T3 と T4 を多量に生産してしまい,甲状腺機能亢進症の状態になる。

ホルモン分泌低下

また甲状腺機能が不全となると,ホルモン Tと T3 の分泌が減少し,血中チロキシン濃度が低下し,甲状腺機能低下症の状態となる。

最近,この治療に 遺伝子組み換えヒト TSH が利用されるようになってきた。

TSH 受容体の突然変異のために, 甲状腺機能低下症の状態となることも知られている。

 


サブユニットの特徴

卵胞刺激ホルモン
Follicle-Stimulating Hormone ( FSH )

ヒトの FSH は分子量約3万5000,二量体の糖タンパク質である。

  • TSH や LH と同じ分子構造を示すアミノ酸89個からなるa サブユニット
  • アミノ酸 115 個からなる b サブユニット,これが機能を持つ構造を与える。

FSHの合成と放出は,視床下部から分泌される ゴナドトロピン放出ホルモン ( GnRH ) によって制御される。FSH の効果は性によって異なる。

雌 ( 女性 ) における FSH の働き

成熟した雌では,FSH ( LH との共同で ) は卵巣に働いて 卵胞 の発育を促し,エストロジェン の分泌を刺激する。

雄 ( 男性 ) における FSH の働き

成熟した雄では,FSH は 精巣の 精祖細胞 spermatogonia に作用し,( テストステロン と協力して ) 精子生産を刺激する。

 



黄体形成ホルモン
Luteinizing Hormone ( LH )

LH は性腺刺激ホルモン放出ホルモン ( ゴナドトロピン,GnRH ) の影響下で FSH と同じ下垂体前葉細胞で合成される。 LH は分子量約3万,二量体の糖タンパク質である。

  • アミノ酸 89 個からなる a サブユニット,これは FSH とTSH と同じもの。
  • アミノ酸 115 個からなる b サブユニット,これが LH 特有の機能を発揮する。

LH の効果も性によって異なる。

雌 ( 女性 ) における LH の働き

成熟した雌では,LHは以下の機能を持つ。

  • 卵胞を刺激して,エストロジェン estrogen の分泌を促す。
  • LH サージが卵の 第 1 減数分裂 再開をもたらし,排卵 ovulation を誘起する。
  • 排卵後の卵胞内に,黄体 corpus luteum を形成する。これは プロジェステロン progesterone を分泌する。

雄 ( 男性 ) における LH の働き

LH は 精巣 testis の間質細胞に作用し,男性ホルモン テストステロン testosterone の合成と分泌を刺激する。

このため,雄における LH は 間質細胞刺激ホルモン interstitial cell stimulating hormone ( ICSH ) とも呼ばれる。

 



プロラクチン
Prolactin ( PRL )

ヒトのプロラクチンは分子量約2万2000,198個のアミノ酸からなるタンパク質である。

妊娠中に,泌乳のための準備に関与する。

分娩後は乳汁の合成を促進するよう働く。

プロラクチンの分泌は,

  • TRH によって刺激され,
  • エストロジェン と ドーパミン によって抑制される。

動物では黄体維持作用や水電解質に及ぼす作用があるが,ヒトでは明らかでない。



成長ホルモン
Growth Hormone ( GH )

成長ホルモン ( ソマトトロピン somatotropin とも呼ばれる ) は 191 個のアミノ酸からなるタンパク質である。

視床下部からの成長ホルモン放出ホルモン ( GHRH ) の間欠的な刺激によって,成長ホルモンの合成と分泌が促される。 成長ホルモンは以下の働きによって身体の発育を促す。

  • 肝細胞表面の受容体に結合する。
  • これによって,インスリン様増殖因子 insulin-like growth factor-1 ( IGF-1ソマトメジン somatomedin とも呼ばれる ) の放出が刺激される。
  • IGF-1 は長骨端に直接作用し,骨の発育を促す。

下垂体機能異常

  • 幼児期
    • 成長ホルモンの分泌不全は成長を妨げる ( 小人症 dwarf )。
    • 分泌過多により 巨人症 gigantism となる。
  • 成人期における,成長ホルモンの分泌過多により 末端肥大症


ホルモン補充療法

最近,組み換え DNA 技術による GH 製剤が利用できるようになり,分泌不全の患者に対する治療への利用が始まっている。

また,一方では治療の必要がない子供にも投与して,背を高くさせたいとする両親の強い希望も寄せられているようである。

 

米FDA、低身長の子への成長ホルモン投与を認可 2003年7月26日


副腎皮質刺激ホルモン
ACTH – adrenocorticotropic hormone

ACTH は 39 個のアミノ酸からなるペプチドである。

副腎皮質に働いて副腎皮質ホルモンの合成と分泌を促す。ストレスから体を守る働きをするホルモンで,動物がストレスに出会った場合,このホルモンの分泌が増加して副腎皮質ホルモンの分泌が盛んになる。

ACTH は以下の細胞に働く。 副腎皮質に作用し,以下の分泌を盛んにする。

  • 糖質コルチコイド glucocorticoid ( 例,コーチゾール cortisol )
  • 電解質コルチコイド mineralocorticoid (例,アルドステロン aldosterone )
  • アンドロジェン (例,テストステロン testosterone )
  • 胎児では,ACTH は副腎皮質を刺激して デヒドロエピアンドロステロンサルフェイト dehydroepiandrosterone sulfate ( DHEA-S ) と呼ばれるエストロゲンの 1 種の前駆物質を合成する。この物質は 分娩 の準備に母胎にとって必要である。

ACTH の生産は視床下部からの副腎皮質刺激ホルモン放出因子corticotropin-releasing hormone ( CRH ) の間欠的な分泌によって刺激される。

副腎皮質から分泌されているコルチゾールの慢性の過剰状態が続いた場合に発症する疾患としてクッシング病 Cushing’s disease が知られている。

 



下垂体後葉 Posterior Lobe

下垂体後葉ホルモンの機能下垂体の後葉からは 2 種類のホルモンが分泌される。

ただし,視床下部にある視索上核や室旁核の神経細胞で産生されたホルモンが,後葉にまでのびた神経突起の中を下降し貯留されたもので,刺激に応じて分泌される。

 

  • 抗利尿ホルモン Antidiuretic Hormone ( ADH )
    または バゾプレッシン vasopressin尿量を調節する作用 ( 抗利尿作用 ) をもつ脳下垂体後葉ホルモンの 1 つ。 9 個のアミノ酸からなるペプチド。

    • ADH 欠乏,または
    • 受容体遺伝子の突然変異などが原因となり,

    バソプレシンの合成や分泌が障害されると 尿崩症 diabetes insipidus が起こる。腎臓で尿を濃縮することができなくなるために,尿がうすくなり,尿量が異常に増加する病気である。1 日の尿量は数リッター から十数リッターにも及ぶため,頻繁に排尿せざるをえなくなり,一方で,体内の水分が尿中に排出されてしまうために異常な口の渇きを覚え,これをいやすために,頻繁に水分を摂取するようになる。


  • オキシトシン Oxytocin
  • オキシトシンは 9 個のアミノ酸からなる。その主な作用は:

    • 強い 子宮収縮作用 をもち,分娩 時に大きな役割を果たすと考えられている。
    • 乳児が乳首を吸引すると,その刺激が視床下部に伝わり,オキシトシンが分泌され,そのオキシトシンは 乳腺腔の周囲の筋繊維 を収縮させ,腺腔内の乳汁を乳頭へ押しやり,乳汁の分泌を促す。

    吸入刺激とオキシトシン分泌反射また,オキシトシンの子宮収縮作用を利用して,分娩の誘発 などに用いられている。


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February 06, 2020

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