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エームス試験 Ames Test


ある化学物質が 突然変異原 mutagen ( 突然変異を誘発する物質 ) であるかどうかを検査する試験を,開発者の名前 ( Bruce Ames ) をとってエームス試験という。

エームス試験は, ( この試験で用いられる細菌に対して ) 突然変異原であるあらゆる物質が 発ガン物質 carcinogen に成り得るという仮定に基づいている。

実際,実験動物においてガンを引き起こすある物質 ( たとえば,ダイオキシン dioxin ) がエームス試験で陽性とならないことがある ( またその逆もある ) が,この試験は簡便で低コストなため我々の環境に潜在する発ガン物質を検査するのに極めて貴重なものである。

この試験に用いられる細菌は サルモネラ菌 Salmonella typhimurium 《ネズミチフス菌》 の 1 系統であり,培地の成分からアミノ酸の 1 種 ヒスチジン histidine ( His ) を合成できないような突然変異遺伝子をもっている。

しかし,あるタイプの突然変異体(この例も含む)は復帰することができる。すなわち,その機能を取り戻した遺伝子をもつ 復帰突然変異 back mutation が起こる。これらの 復帰突然変異体 revertants はヒスチジンの欠乏した培地でも発育することができる。

写真は定性的なエームス試験を示す。サルモネラ菌のヒスチジンを要求する ( His ) 系統の混濁液をヒスチジンを欠く寒天上にラット肝臓酵素液と共に播種された。円形のろ紙,発ガン物質として知られている 2-aminofluorine 10 µg をしみ込ませてある。

化学物質の変異原性の影響によって,ろ紙の周囲にコロニーが見られるように多くの細菌がヒスチジン無しでも増殖する能力を取り戻している。ろ紙付近のコロニー周辺に散在しているコロニーは自発的な復帰突然変異体があることを示している。

多くの化学薬品がそれら自身,突然変異原 ( あるいは発ガン物質 ) ではないが,それらが体内で代謝される時に突然変異原(ならびに発ガン物質)変換してしまう。このことが,エームズ試験が肝臓酵素の混合物を含んでいる理由である。

農業と工業において使用される多くの化学薬品はエームズ試験の結果,陽性を示す。例えば,二臭化エチレン ethylene dibromide ( EDB ) は,有鉛ガソリンに添加されている ( エンジン内に沈着する鉛を気化させ,それらを排気ガスに送り出してしまう ) 。

また,ジラム ziram は作物のカビ病を予防するために使用されている。結核を防ぐために使用された イソニアジド isoniazid のような医薬品も,このテストでは突然変異原と判定される。

日本でかつて広く利用された食品添加物である AF-2 ならびにルートビール ( 植物の根,ハーブから作る炭酸飲料・ビール ) に添加された香料添加剤である サフロール safrole は使用が禁止されている。発ガン物質であると疑われた サッカリン saccharin はエームス試験で陽性ではない。

化学工業の製品について主に試験が行われたが,サフロール safrole のような多くの天然物質も突然変異原でることが示されてきた。これらには,カビている穀物やピーナッツ ( そして平均 2 PPB レベルでピーナッツバターに存在する ) 産生される アフラトキシン aflatoxin も含まれる。 エームス試験で陽性の 9 種類の微量な物質がフライド・ハンバーガーで見つかっている。

サルモネラ菌 Salmonella typhimurium は 原核生物 である。したがって,人体への影響を見る完全なモデルとは言えない ( これは肝臓の酵素が試験のために添加されている理由でもある ) 。エームズ試験のような迅速な生体外試験として,培養された酵母と哺乳動物細胞のようないくつかの真核細胞が利用され始めている。また,組み換え DNA 技術 のおかげで,動物における長期間の研究のより現実的な条件と組み合わせることが可能である。

マウスを用いた突然変異試験についてはこちら ]


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February 03, 2020

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