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コレステロール Cholesterol

コレステロールは分子量が小さい ステロイド の1つで,生命にとって必須の物質である。さらに,17 件のノーベル賞や数え切れない科学雑誌および報告書の対象となってきたし,さらに健康に関心が高い人々の常に関心の的である。なぜ,コレステロールがこう注目されるのだろうか?

人の体には約 100 g のコレステロールが含まれる。そのほとんどが 細胞膜 の必須の成分として利用される。

ニューロンの周りに巻き付いている ミエリン myelin の絶縁層はとくにコレステロールが豊富な部分である。さらに少量であるが,重要な成分として性ホルモンを含むステロイド・ホルモンの合成に利用される。すなわち,

などがある。 また,コレステロールは ビタミン D を合成する前駆物質である。

さらに,コレステロールの重要な用途の 1 つとしては 胆汁酸 の合成がある。胆汁酸は肝臓でコレステロールから合成され,胆汁液に分泌される。 これは,小腸の内容物から脂肪を吸収するのに必要である。ほとんどの胆汁酸は糞便として失われるのではなく,小腸下部で吸収され肝臓で再利用されることからも,コレステロールの重要性が示唆される。

しかし,このコレステロールの損耗分を補填したり,他にも利用されるため,ある程度消費される。そのため,肝臓は,脂肪代謝産物から毎日 1500 – 2000 mg のコレステロールを新たに合成している。

また,肝臓から他のすべての器官へ血液を介してコレステロールは絶え間なく輸送されている。このコレステロールのほとんどは,脂肪酸ならびに 低密度リポタンパク質 low density

lipoprotein ( LDL ) と複合体をつくり輸送される。コレステロールを必要とする細胞は,受容体を介するエンドサイトーシス ( 飲食作用 ) によって LDL を捕捉して取り込む。

コレステロールは問題も引き起こす。胆汁中のコレステロールは結晶化し胆石をつくり,胆汁管を遮ってしまうことがある。 また,コレステロールは アテローム性動脈硬化症 の発症に強く関与していると考えられている。すなわち,血管内壁に脂肪沈着を起こし,心臓発作を起こしやすくしてしまう。主な原因は体の必要以上の LDL 量にあるようだ。

血中のコレステロール量は mg/dl 単位で測定されるが,通常,幼児で 50 mg/dl 以下,成人で平均 215 mg/dl である。そして,1,200 mg/dl 以上の人は遺伝病

家族性高コレステロール血症 が疑われる。正常な場合には,コレステロールの約 2/3 が LDL として輸送され,残りのほとんどはいわゆる 高密度リポタンパク質 high density lipoprotein ( HDL ) によって運搬される。

このように心疾患との関連があるために,血清脂質の分析は健康診断にとって重要である。

表には血清中の標準値を示した。

脂質 正常範囲 ( mg/dl ) 推奨値 ( mg/dl )
全コレステロール 170-210 <200
LDL コレステロール 60-140 <130
HDL コレステロール 35-85 >40
中性脂肪 40-150 <135
  • 全コレステロールは,以下の合計である。
    • HDL コレステロール
    • LDL コレステロール
    • 中性脂肪値の 20%
  • 以下に気を付けるべきである:
    • 高 LDL 値は要注意であるが,
    • 高 HDL 値は望ましい。
  • 心疾患危険比 = 全コレステロール ÷ HDL コレステロール
  • この比が 7 以上であると警戒を要する。

コレステロール量を減らすためには,食事や適度な運動なもちろんであるが,以下のものは心疾患の危険性を増大させる要因となる:

  • 喫煙
  • 糖尿病
  • 高血圧症の人,あるいは
  • 肥満症の人


 

最近の知見

HMG CoA還元酵素活性調節機構とスタチン

引用:佐藤 隆一郎 (Kagaku to Seibutsu 56(3): 161-164 (2018)

コレステロール合成はアセチルCoAを出発基質として,およそ30段階の酵素反応を介して行われる。こうして炭素数2の化合物から炭素数27の複雑な構造を有する化合物がヒト肝臓で1日1g程度合成されると推定されている。したがって,この合成経路を遮断することは体内コレステロール量を減少させるのに有効であり,そのような考えに基づき,合成経路の律速酵素HMG CoA還元酵素の阻害剤であるコンパクチンが遠藤らにより開発された。コレステロール合成は,最終産物であるコレステロールによるネガティブフィードバック制御による精緻な調節機構のもとに進行している。その一つの機構として,HMG CoA還元酵素をはじめとする合成に関与するすべての酵素の遺伝子発現はコレステロール量の増加に伴い,転写レベルで減少する。同時にHMG CoA還元酵素タンパク質は細胞内コレステロール量が増加すると,速やかに分解される。合成経路の律速酵素であるHMG CoA還元酵素はこの2つの制御を受ける唯一の酵素である。このように細胞内でコレステロール量を制御するシステムとして,HMG CoA還元酵素活性は精妙にコントロールされており,その制御機構の細胞生物学的解明にスタチンは極めて重要な役割を担ってきた。


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February 07, 2020

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