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エンドサイトーシス ( 飲食作用 )
エンドサイトーシスとは細胞が外界の固形物を食べたり,溶液を飲んだりして,外界から物質を取り込む作用の総称である。
具体的には,細胞表面にある物質を原形質膜が包み込み,小胞とし,その小胞が原形質膜から離れ細胞内部へ移動していく物質取り込み様式である。
かつては,食べることを 食作用 phagocytosis ,溶液を飲むことを 飲作用 pinocytosis と呼び分けてきたが,現在では両者が共通の機能・機構をもつことから考えて同じ名称が望ましいとされている。ここでは便宜上,両者を区別して説明する。
ファゴサイトーシス ( 食作用 ) phagocytosis
ファゴサイトーシス ( 食作用 ):
- 細胞が粒状物質 ( たとえば,細菌 ) を取り込む現象。
- その物質は,比較的大きな膜構造物,いわゆる 食胞 phagosome に取り込まれる。
- 特定の細胞においてのみ起こる ( たとえば, 好中球, マクロファージ, アメーバ ) 。
- 散発的に起こる。
この電子顕微鏡写真はポリスチレン粒子を取り込んでいる食細胞を示す。いくつかの粒子は既に食胞の中に取り込まれている。
食胞はその内容物を リソソーム lysosome に引き渡す。 この食胞は後にリソソームというタンパク質分解酵素を含んだ細胞質中に散在する小胞と融合して摂取した物質を分解・消化してしまう。
寄生者の隠遁の術?!マクロファージや好中球のような飲食細胞は侵入した細菌に対する最前線である。しかし,ある細菌は食作用によって取り込まれても消化を免れる術をあみ出している。2 つの例:
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飲作用 pinocytosis
飲作用では比較的小型のものが取り込まれる。
飲作用
- ほとんどすべての細胞で起こる。
- 連続的に起こる。
細胞の表面から膜が細い管状に細胞内に落ち込んで,その管の先がくびれることによって細胞内に外液を取り込む現象。
細胞膜を通ることができない巨大タンパク質分子や特定のイオンの細胞内への取込みの方法で,小腸の上皮細胞も盛んにこれを行って栄養吸収に重要な役割をはたしている。
受容体が仲介する飲食作用
膜内在性タンパク質の中には細胞外液の特定の成分に対する受容体がある。たとえば,血液に運ばれる鉄イオンは トランスフェリン transferrin と呼ばれるタンパク質に結合している。
細胞が表面にトランスフェリンに対する受容体をもっており,これらの受容体がトランスフェリン分子に遭遇すると結合して複合体を形成する。その複合体が飲食作用によって取り込まれ,最終的に細胞質に鉄イオンが放出される。
トランスフェリン ( 鉄イオンの リガンド ) に対するその受容体の強い 親和性 のために,細胞が必要なすべての鉄イオンを得ることが可能となっている。受容体が仲介する飲食作用は単純な飲作用に比べると極めて効率的である。
もう 1 つの例: 低比重リポタンパク質 ( LDL ) 受容体
細胞は受容体が仲介する飲食作用によってコレステロールを取り込む。コレステロール は細胞膜の必須の成分の 1 つである。必要になった時,ほとんどの細胞はコレステロールを合成するか,細胞外液から獲得する。ヒト細胞は大部分のコレステロールを肝臓からと小腸の吸収によって得る。
コレステロールは疎水性の分子で,水に全く溶けない。これでは,肝臓や小腸から細胞へ血液や細胞外液に単純に溶解して到達することができない。その代わりに,リポタンパク質の小顆粒で運搬されている。
ヒトにおける最も豊富なコレステロールの担体 ( キャリアー ) は 低比重リポタンパク質 low-density lipoprotein ( LDL ) である。
LDL 粒子は 1 層のリン脂質分子に被われた球体である。リン脂質の層は親水性の頭部を外液 ( たとえば,血液 ) に向け,疎水性の尾部を内部に向けている。多量のコレステロール分子が LDL 粒子の疎水性内面に結合している。
アポリポ蛋白質 apolipoprotein B-100 ( ApoB-100 ) と呼ばれるタンパク質が LDL 粒子の表面にむき出して存在する。
LDL 粒子を捕捉する最初のステップは,LDL 粒子を細胞表面にある LDL 受容体 に結合させることである。 これらの 膜貫通型タンパク質 は LDL 表面上のアポリポ蛋白質 B-100 を認識して結合する部位をもっている。
LDL に結合した細胞膜の部分は飲食作用によって吸収される。pH が低下 ( 約 7 から約 5 ) するため ,LDL とその受容体の解離が起こる。この小胞は 2 つのさらに小さな小胞へくびり切れて,一方には遊離した LDL を含み,他方は解離した受容体が含む。
LDL をもつ小胞は リソソーム と結合し,二次リソソームを形成する。そしてリソソームの酵素によって,遊離コレステロールが細胞質へ放出される。解離した受容体はは細胞膜へ戻されそこに結合する。
ただし,その時は膜の裏表が逆になる。この方法によって,LDL 受容体が再利用のために細胞膜へ戻される。
LDL 受容体の突然変異遺伝子をホモでもつ人は,受容体の機能が不十分か,全く機能しない。このため,血中に極めて高いレベルの LDL 受容体が形成され,アテローム性動脈硬化症 atherosclerosis や心臓発作を起こしやすくなる。
この病気は ( 遺伝するため ) 家族性 高コレステロール血症 hypercholesterolemia と呼ばれる。apoB-100 遺伝子 における突然変異による別のなタイプの家族性高コレステロール血症も知られている。
寄生者の戦略
寄生者のなかには,宿主に潜り込むのに受容体仲介型エンドサイトーシスをちゃっかり利用するものがある。
寄生者は,標的細胞の受容体へ結合するおとりの リガンド として働く表面分子を作り出した。これらの受容体に結合すると細胞が騙されて寄生者を飲み込んでしまう。
いくつかの例:
- EB ウイルス Epstein-Barr Virus ( EBV ) – このウイルスは単球増加症を引き起こし,バーキットリンパ腫 ( B リンパ球のガン )を起こす要因となる。このウイルスが,B 細胞の表面受容体に結合してしまう。
- インフルエンザ・ウイルス – ウイルス表面上の 血球凝集素 が標的細胞の炭水化物に結合し,細胞を騙して飲み込ませてしまう。
- リステリア菌 Listeria monocytogenes – この菌は脳炎症の原因となる。食品 ( ソフト・チーズ,肉 ) からも感染し,子供,妊婦に危険。妊婦は胎児に血液感染させ,脳髄膜炎を起させる。大人では中枢神経合併症,心内膜炎,肺炎を起す。この菌は細胞表面の異なる受容体に結合するそれぞれのリガンドを表面分子としてもっている。
- 肺炎連鎖球菌 Streptococcus pneumoniae – 鼻咽頭の上皮細胞は,血液から細胞表面に IgA と IgM 抗体が輸送されるのに反応する受容体もつ。結核菌は細胞に入り込むのにこの受容体を利用する。
元に戻る仕組み
エンドサイトーシスは細胞膜の一部を細胞内にもち込む現象である。平衡を保つためには,細胞膜へ取り除かれた膜が戻されなければならない。これは エキソサイトーシス exocytosis ( 吐細胞現象 ) によって起こる。
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February 04, 2020