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家畜における生殖器官の解剖と生理

このページの内容

 

生殖器官の基本構成

生殖器 reproductive organ は

  • 生殖腺 gonad
  • 副生殖器 accessory reproductive organ

より成り,動物の種 によりそれぞれ形態,大きさが異なる。

また,生殖器を分けて,内部生殖器外部生殖器とする場合もある。

生殖腺は雄では精巣,雌では卵巣として発達を遂げるが,その主要な過程は生殖細胞を分裂増殖させる段階とその後これら生殖細胞を減数分裂によって配偶子として成熟させる段階がある(配偶子の生産)。

これらの発達過程は生殖腺自体の分泌する性ホルモンによって制御され,同時に雌雄にみられる種々の性的特徴,副生殖器の形態・機能を支配するホルモンを分泌する 内分泌器官 としての役割も果たしている。

いろいろな動物の精巣の位置副生殖器は配偶子の輸送路,配偶子あるいは受胎産物の保護,ならびに交尾器としての機能を果たす諸器官から成る。

 

雄性生殖器

雄性生殖器は

  • 精巣,精巣上体,精管,尿道,種々の副生殖腺 (内部生殖器)
  • 陰茎(外部生殖器)

から成る。

 

1. 精巣 testis, pl. testes

精巣は雌の卵巣に対応する一対の器官で,

を生産する。

動物種によって,雄体内における精巣の位置が異なるのも興味深い現象である(右図)。

 

(1) 精巣の構造

雄性生殖器の基本構成
多くの哺乳動物では,精巣は左右別々に陰嚢(のう)内に収納されている。

ウシの雄性生殖器の構成図を右に示す(精巣の中部構造については右下図「ウシ精巣と精巣上体の管系」を参照)。

精巣で形成された精子は,精巣上体に運ばれ,ついで精管に入る。

精管は鼠径管を通って骨盤内に入り,腹膜下の結合組織内を下って膀胱の後下方に達する。

このあたりで精管は太くなって精管膨大部とよばれるが,ついで前立腺内に進入し,その中で細い射精管となって,前立腺を貫く尿道に左右別々に開く。

また,膀胱の後下面,前立腺のすぐ後上方には精嚢腺(せいのうせん)が1対,前方には尿道球腺が1対あり,射精管に開口する。
ウシ精巣と精巣上体の管系を右に示す。

ウシ精巣の構造精巣の中にはきわめて長い曲精細管が屈曲し,この中で精子が形成される。

形成された精子は,直精細管を経て精巣網に運ばれる。 そこから精巣上体に達し,ついで精管に入る。

精管以降の経路は上述の通り。

精細管内には 精子形成 spermatogenesis に直接関与する生殖細胞群と,これを支持する セルトリ細胞 Sertoli cell が存在し,間質には アンドロジェン 生産に関与する ライディヒ細胞 Leydig cell が存在する。

(2) 精巣の機能

a. ホルモンの生産

精巣のホルモンは,

によって生産される。

ライディヒ細胞の機能
ライディヒ細胞は, 黄体形成ホルモン ( LH ) の刺激によってアンドロジェンテストステロン)を合成し,分泌する。「負のフィードバック機構」による分泌制御
LH 分泌が高まると,アンドロジェンの血中濃度は高まる。しかし,その状態が長く続くと,アンドロジェンの LH に対する負のフィードバック作用により,アンドロジェン合成が低下する。生産されたアンドロジェンは拡散によって精細管に入り,精子形成に重要な役割を果たす。 また,血管系にも入り,副生殖腺の発育と機能維持,二次性徴の完成,性欲の発現などに関与する。
セルトリ細胞の機能
セルトリ細胞 は,卵胞刺激ホルモン ( FSH ) の刺激で エストロジェン を分泌する。雄における エストロジェン の役割は十分に知られていないが,ウマとブタの精巣は例外的に多量の エストロジェン を分泌する。また,セルトリ細胞 は FSH の刺激で インヒビン を分泌する。このホルモンは下垂体に直接作用して FSH 合成を抑制する。ホルモン物質ではないが,アンドロジェン結合蛋白質 ( ABP ) も セルトリ細胞 の生産物である。 ABP は但体としてアンドロジェンと結合し,これを精子形成中の性細胞に供給し,また精巣上体に運ぶ。
精上皮とセルトリ細胞の模式図はこちら
各家畜の精上皮日数はこちら

b. 精子の生産

精子は,性腺刺激ホルモンとアンドロジェンの制御のもとで精巣の精細管で作られる。

精祖細胞にはじまって精子になるまでの過程を 精子形成 という。

精子形成は春機発動期に始まり,加齢によって精細管が退行するまで続く。

成熟家畜が 1 日に生産する精子の数は,動物種,品種,個体によって大きく変動するが,ウシやブタでは 100 億にも及ぶと見られている。
精細管や精巣網内にある精子は精巣精子という。それらは運動能力や受精能力を持たない未熟な精子である。

精子形成の模式図はこちら

c. 精巣温度の調節

精巣は体温よりもわずかに低い温度で制御されている。

精巣温度の調節
 

2. 精巣上体 epididymis

精巣上体は精巣表面に長軸に沿って付着した器官で,

  • 頭部
  • 体部
  • 尾部

の3部位からなる。

内部には精子の通路となる精巣上体管が屈曲して収められている。

精巣上体は

  1. 精子を成熟させる場であり,
  2. また精子の貯蔵場所である。

 

3. 精管 deferent duct

精管は精巣上体に続く細管で,脈管,神経等と共に精索内を上走し,鼠径管を経て腹腔および骨盤腔内に入り,膀胱背面に至る。

精管は尿道の基部で精丘に開口するが,その末端部はブタ以外の家畜で太くなっているので,ここを精管膨大部という。
膨大部はウマで最もよく発達し,反芻類がこれに続くが,ブタでは精管膨大部はみられない(家畜の副生殖器の背面図参照)。
 

4. 副生殖腺

副生殖腺

雄性動物の副生殖腺は精子の生理に関係のある分泌液を生産,分泌する副生殖器で,家畜では

  • 精嚢(のう)腺
  • 前立腺
  • 尿道球腺

が主な器官である。

a. 精嚢(のう)腺 vesicular gland, seminal vesicle

精のう腺は精管膨大部の外側にある左右一対の器官で,一般に家畜ではよく発達している。

反芻家畜やブタでは小葉状,ウマでは胞状を呈する。イヌ,ネコにはない。

導管は,精管と独立に尿道に開くか〔 ブタ 〕,精管膨大部の基部 ( 射精口直前 ) に開口する〔 ウシ,ウマ 〕。

タンパク質を多く含む黄色みをおびたゼラチン様の粘液を分泌し,射精時に射精管に送り出されるが,この分泌物はアルカリ性で精子の運動を盛んにする働きがある。

b. 前立腺 prostate gland

ウシとブタの雄性生殖器比較尿道頭部に位置する体部と,尿道骨盤部に沿って分布する伝播部からなる。

  • 体部は,ウシ,ウマ,ブタでは表面から観察されるが,ヒツジでは認められない。
  • 伝播部は尿道筋におおわれているので,表面からは観察されない。

前立腺はヒトやイヌでは重要な副生殖腺である(精液の液体成分の大部分を占める前立腺液を分泌する)が,家畜では分泌機能が精のう腺ほど活発でない。

プロスタグランジンが分泌される器官と考えられた時期がある。すなわち,前立腺の英語名「プロステート・グランド」から「プロスタグランジン」と命名された。

c. 尿道球腺 bulbo-urethral gland, Cowper’s gland

尿道球腺はカウパー腺とも呼ばれる一対の器官で,ブタ以外の家畜では球状を呈し,尿道骨盤部の尾部に位置する。

ブタでは円筒状を呈し,尿道をおおう形で存在する。

尿道球腺は精のう腺や前立腺の分泌液に比べ少量であるが,ブタでは精液の15 – 20%を占め,精液膠様物の主成分である粘稠物質を分泌する。

ヤギの分泌液も粘稠で,この中に卵黄凝固因子を含む。

 

5. 尿道および陰茎

尿道には精管および副生殖腺が開口しており,尿および精液の共通の排出路となる。

すなわち,精子は射精時に精巣上体から精管を経て尿道に運ばれ,そこで副生殖腺液が加えられ精液となり,陰茎内の尿道を通って体外に放出される。

陰茎は雄性動物の交尾器で排尿器も兼ねている。

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February 07, 2020

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