細胞骨格
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細胞にはタンパク質線維が複雑に配列していて,以下のような機能を持つ:
細胞骨格は 3 種類のタンパク質フィラメントからなる:
- アクチンフィラメント ( マイクロフィラメント とも呼ばれる )
- 中間径フィラメント
- 微小管
アクチンフィラメント Actin Filament
タンパク質アクチンの単量体が重合して,細長い線維を形成する。その直径は約 8 nm で,細胞骨格のうちで最も細い。そのため,マイクロフィラメント microfilament とも呼ばれている ( 骨格筋線維では 細いフィラメント と呼ばれている ) 。
アクチンフィラメントの機能は以下の通りである:
- 細胞膜 plasma membrane の直下に帯状に配列
- ある種の細胞では細胞質流をつくる
- 白血球やアメーバなどの細胞では移動運動を可能にする
- 骨格筋線維 の 1 つとしてミオシン myosin ( 太いフィラメント ) と相互作用して筋肉の収縮力を生む
中間径フィラメント Intermediate Filament
中間径フィラメントは平均直径が 10 nm でアクチンフィラメント ( 8 nm ) と微小管 ( 25 nm ) の “中間” の太さということ ( 骨格筋線維の太いフィラメント と同じ ) 。
中間径フィラメントには 5 つのタイプがあり,それぞれが特徴的なタンパク質から構成されている。
それらの化学的な多様性にもかかわらず,中間径フィラメントは細胞の構造を支えるというような同じ役割を果たしている。
たとえば,核 nucleus は ケラチン keratin と呼ばれるタンパク質から成る中間径フィラメントの繊細なネットワーク ( 右の写真 ) によって支えられている。
写真では,上皮細胞のケラチンが蛍光染色にされている。
いろいろな上皮で,それぞれ異なるケラチンが中間径フィラメントの構築に関わっており,20 種以上のケラチンが認められている。扁平上皮細胞 squamous epithelial cell の乾物重量で 85% もがケラチンで構成されている。
中間径フィラメントの機能は以下の通りである:
- 筋細胞の細いフィラメントと太いフィラメントを定位置に固定する
- あるニューロンに見られる長い軸索に物理的強度を与える
微小管 Microtubule
微小管の特徴は以下の通りである:
- まっすぐに伸びた,中空の円筒状を示す。
- その直径は約 25 nm である。
- その長さは種々あるが,太いものでは 1000 倍も長く伸張する。
- a チューブリン と b チューブリン の 2 量体である。
- 動物細胞だけでなく植物細胞にも存在する。
微小管は
- チューブリン 2 量体の重合によって,両端で成長する( GTP の加水分解によって成長する ) 。
- チューブリン 2 量体の分解 ( 脱重合 ) が両端で起こる。
しかし,どちらの過程もある端部,いわゆるプラス端 で急速に起こる。他端では,その活動は低く マイナス端 と呼ばれている。
微小管は細胞のいろいろな活動に関わっている。細胞内のいろいろな運動にも関わっている。モータータンパク質によって運動が可能となっており,ATPを消費しながら微小管に沿って移動する。
微小管のモータータンパク質
微小管のモータータンパク質には主として2つのグループがある:
- キネシン kinesin ( 微小管のプラス端方向へ移動する )
- ダイニン dynein ( マイナス他方向へ移動する )
代表的な例として:
- 神経軸索端に向いているプラス端をもつ微小管に沿って,小胞やミトコンドリアのような細胞小器官の高速移動が起こる。モータータンパク質はキネシンである。
シャルコー・マリー・トゥース病 Charcot-Marie-Tooth disease はあるキネシンの遺伝子の突然変異によって起こる慢性進行性筋萎縮症である。この病気では,軸索輸送に異常がある ( 長い運動ニューロン端の筋に脱力と萎縮を生じやがて知覚低下も加わる ) 。 - 有糸分裂 と 減数分裂 における染色体の移動が,紡錘体 を構成する微小管上で起こる。キネシンとダイニンの両方がモータータンパク質として関与する。
紡錘糸は 微小管形成中心 microtubule organizing center ( MTOC ) から発する。動物細胞の MTOC は 中心体 centrosome である。
中心体 Centrosome
受精した精子の尾部を構成する軸糸の起点となっている中心体が複製され,細胞分裂時の紡錘体極となる。
有糸分裂中期における紡錘体極と紡錘糸(微小管)との関係図を以下に示す。

有糸分裂中期における紡錘体極と微小管の関係
https://wikispaces.psu.edu/display/Biol230WFall09/Mitosis%2C+Cell+Division+and+the+Cell+Cycle より一部改変。
中心体は:
- 核のすぐ外側の細胞質に位置する。
- 体細胞分裂の直前に,中心体は複製される。
- 2 個の中心体は核の両極に位置するよう移動する。
- 体細胞分裂が続くにつれ,微小管が中心体から生じる。そのプラス端が赤道板方向へ成長し,紡錘糸 を形成する。
写真は分離した中心体から発生する微小管を示す。中心体は a チューブリン と b チューブリン 単量体を供給する。それらは同時に微小管を形成していく。
紡錘糸は 3 つの役目をもつ:
- 二分染色体 dyad の 動原体 kinetochore の 1 つに結合し,もう 1 つの極から伸びた紡錘糸は他の動原体に結合する。
- 染色体腕部に結合する。
- 2 つの中心体から微小管が成長し続け,重なり合う部位まで伸張する。
3 つすべてのグループの紡錘糸が以下に関与する:
- 中心体から伸張する微小管とモータータンパク質との関係
- 分裂中期 metaphase における染色体の赤道板の配列
想定される機構 ( 図には 1 と 2 のみ示す )- 二分染色体の両側に付着した微小管が,均等な長さになるまで,伸縮する。
- キネトコアに付着した微小管モーターがそれらを以下のように移動する。
- 微小管が短縮するマイナス端方向へ ( ダイニン ) ,動原体 kinetochore が紡錘糸の先端 ( プラス端 ) へ移動する。これには キネシン kinesin を含むいくつかのタンパク質が必要である。
- 微小管が伸張するプラス端方向へ ( キネシン )
- 染色体腕部が違う種類のキネシンを用いて中期板に移動する。
- 分裂後期 anaphase における染色体の分離
- 姉妹キネトコア ( 動原体タンパク質 ) が分離し,それぞれの染色分体を運ぶ。
- マイナス端モータータンパク質,おそらく ダイニン dynein の機能によって微小管に沿って移動する。この時微小管自体が短縮する。
- 重なった紡錘糸がお互いに行き違い,両極をさらに押し合う。この時にはプラス端モータータンパク質,両極性の キネシン kinesin が関与する。
- この方法で,姉妹染色分体は両極に達する。
中心体の他の機能
紡錘体形成の他に,中心体は動物細胞で重要な役割を果たしている:
- 細胞質分裂 cytokinesis が起こる前の完了信号を発する
レーザー光線で両方の中心体を破壊すると,染色体分離が完了しても細胞質分裂が起こらない。 - 娘細胞が次の 細胞周期 cell cycle に入る,とくに次の S 期 で染色体の複製準備が完了している信号を発する
レーザー光線で一方の中心体を破壊すると,細胞質分裂は完了するが娘細胞は次の S 期に入らない。 - 体細胞分裂でつくられる娘細胞の一方にのみ信号を発する分子 ( すなわち,mRNA ) を分配する
その結果,同一のゲノムをもつが, 2 つの娘細胞は異なる分化の経路をたどる。
中心体とガン
1 つの細胞に中心体は 通常1 つ存在するが,細胞分裂時には複製されて 2 つになり,対極に分かれて染色体を引っ張ることで、細胞分裂は正しく行われる。もし余分に複製されることがあると染色体を適切に分配することができなくなり,細胞分裂に支障が出て, ガンなどの病気が引き起こされる。
体細胞分裂における染色体の移動には微小管の重合ならびに脱重合が関わっている。たとえば,タキソール Taxol ( イチイの樹皮中に見出された薬 ) は,紡錘糸の微小管の脱重合を防ぐので,染色体移動を止めて,体細胞分裂を防ぐ。この作用のために,タキソールは抗癌剤として使用されている。
P53 や Breast Cancer gene 1(BRCA1)はガン抑制遺伝子として知られているが,これらに異常が起こると中心体増殖を誘導することが報告されている。このように中心体異常と発がんの因果関係については,ガン治療薬の開発を目的として活発に研究されている。
中心小体 Centriole
中心体 centrosome は、中心小体 centriole 2 個から構成されており、その周囲には中心体マトリックスが存在する。中心小体は、タンパク質からなる柱状の構造体である。
2 個の中心小体は、厳密にいうとまったく同じではなく、「母」中心小体と「娘」 中心小体に分けられる。母から娘が形成されたという関係を示す。新しく形成される娘中心小体は、柱状構造の土台の部分から構築されていくことが知られている。

中心体は柱状の部品(中心小体)2 個から構成されている。細胞分裂時には,この 2 個が母中心小体となり,それぞれに娘中心小体を 1 個複製される。国立遺伝学研究所プレリリース(平成 26 年 10 月 21 日)より引用。
中心小体では,微小管が 3 本ずつが対となって 9 対が配置されて構築される。.
写真は中心小体の横断面を示す電子顕微鏡写真である。 9 個の微小管トリプレットの配置が認められる。倍率は約 305,000 倍である。
細胞が 細胞周期 cell cycle に入り,G1 期から S 期へ進む時に,各中心小体が複製される。複製される中心小体は元の中心小体の側で形成される。中心小体の複製は,DNA 複製 に類似しており,同時に起こっている。.
一度形成されると,中心体の機能のほとんどは中心小体なしに達成される。しかし,
- 中心小体は中心体を形成するのに必要とされる。
- 精子には 1 対の中心小体が含まれている。しかし卵にはない。精子の中心小体が中心体の形成に必須である。その結果,接合子の第 1 分裂ができるよう紡錘体が形成される。
- 中心小体は 繊毛 cilia や鞭毛 flagella の形成にも必要である。
繊毛と鞭毛

鞭毛(繊毛)の顕微鏡像と模式図
(a)繊毛の電子顕微鏡像 上部の実線は繊毛を構成する軸糸の横断面(b)の位置,下部の実線は基底小体の横断面(d)。(c)は顕微鏡像(b)を基に軸糸を支えるタンパク質を書き込んだ模式図。
繊毛と鞭毛は微小管から成り,以下の機能を発揮する:
- 細胞の移動運動 ( たとえば,精子 )
- 細胞の側の流体移動 ( たとえば,気管に配列している繊毛上皮細胞は粘液層を喉の方へ移動させている )
繊毛と鞭毛は基本的には同じ構造をもつが,以下のように区別される:
- 繊毛 – 短くて,たくさんあるもの
- 鞭毛 – 長くて, 1 本のみまたは 2 – 3 本のもの
各繊毛 ( または鞭毛 ) は以下のように構成されている:
- 2 本ずつが対になった 9 対の微小管が円筒状に等間隔に並んでいる。各対の横断面では数字の 8 のように見える。
- 2 本の単独の微小管が微小管束の中心を走っている。これらの構造から,”9 + 2″ パターンと呼ぶ。
- 全体が細胞膜から伸びた膜によって被われている。
繊毛の横断面に見られる微小管の “9 + 2” パターンを示す電子顕微鏡の写真。
繊毛または鞭毛の運動は微小管がお互いに滑り合うことで生じる。この運動のために:
- ダイニン dynein 様のモータータンパク質が隣接する微小管を結合している。
- エネルギーとして ATP が消費される。
各繊毛と鞭毛は細胞質に埋まり込んでいる 基底小体 basal body に結合している。基底小体は中心体と同一のもので,微小管の形成に関わっている。
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February 26, 2020