DNA_Repair.html

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DNA 修復

 

修復の重要性

生きている細胞内の DNA は多くの化学的な変化を受けている。凍結したり,乾燥した場合でも DNA 塩基配列が決定されている。 [ 詳細についてはこちら ]

DNA にコード化されている遺伝情報に何も影響がなければ,いかなる化学変化もかまわない。

DNA の修復ができないと 突然変異 mutation となってしまう。

ヒトゲノムに関する最近の研究によって,DNA 修復に関わる 130 個の遺伝子産物がすでに判明している。まもなくもっと多くの情報が得られるだろう。 [ 詳細はこちら ]

 

DNA に損傷を与える物質

  • 特定の波長の放射線
    • 電離放射線 ionizing radiation ( γ 線 と x-線 )
    • 紫外線 ultraviolet ray, とくに UV-C 線 ( ~260 nm ) は DNA による吸収されやすい。比較的長波長の UV-B 線は オゾン層 を通過する。
  • 非常に活性の高い 酸素ラジカル oxygen radical は他の生化学的な経路によるものと同様に,通常の細胞呼吸でも産生される。
  • 環境 中の化学物質
  • ガンの 化学療法 に用いられる化学物質

 

DNA 損傷の種類

  1. 塩基の化学的変化 – DNA 内の塩基の 4 種類 ( A, T, C, G ) の共有結合箇所が変化を受けることがある。
    • 最も起こりえる現象の 1 つとして,アミノ基の欠失 ( “脱アミノ反応” ) がある。その結果,たとえば,C が U に変換してしまうことがある。
  2. 塩基のミスマッチ( 不一致 ) – DNA 複製 過程におけるプルーフリーディング( 校正 )機構がうまく進行せずに,塩基のミスマッチがそのまま残ってしまう。
    • よくある例:ピリミジン塩基 T の代わりに U ( 通常は RNA においてのみ利用 ) が組み込まれる。
  3. DNA 本体の切断
    • 2 本のDNA 鎖のうちの一方が切断,すなわち一本鎖切断 ( single-stranded break, SSB ) ,あるいは両方が切断,二本鎖切断 ( double-stranded break, DSB ) が起こることがある。
    • 電離放射線によってしばしば起こる。また,ある化学物質によっても同様に起こる。
  4. クロスリンク( 架橋 ) – 塩基間に共有結合が形成されてしまうことがある。
    • 同一の DNA 鎖上の塩基で,あるいは
    • 向かい合う DNA 鎖間の塩基で形成される。

    . ガンに対する化学療法として使われる薬品の中には, DNA をクロスリンク( 架橋 )させるものがある。 [ 化学療法についてはこちら ].

 

損傷を受けた塩基の修復

損傷を受けた,または不適当な塩基が以下の機構によって修復を受ける:

  • 損傷の直接的な 化学的取り消し chemical reversal
  • 除去修復 excision Repair, この場合損傷を受けた塩基が除去され,ついで DNA 合成が局所的に起こり正しい塩基と置換される。除去修復には, 3 つの様式があり,それぞれに用いられる特別な酵素群がある。
    1. 塩基除去修復 Base Excision Repair ( BER )
    2. ヌクレオチド除去修復 Nucleotide Excision Repair ( NER )
    3. ミスマッチ修復 Mismatch Repair ( MMR )

 

損傷塩基の直接修復 Direct Reversal of Base Damage

ヒトにおける点突然変異の最も起こりえる原因は自然に起こる メチル基 (CH3-) の追加である( アルキル化 )。たとえば,C にメチル基が導入され( アルキル化 ),ついで脱アミノ反応が起こると,T に変換してしまう。 幸い,これらの変化のほとんどはグリコシラーゼ glycosylases と呼ばれる酵素によって,ミスマッチの T が除去され,正しい C と置換され修復される。この過程は DNA 本体を切断するなどの変化もなく完了する( この点が以下に述べる修復機構と異なる )。

ガンの化学療法 に利用される薬剤の中にはアルキル化して DNA に損傷を与えるものがある。MGMT 遺伝子によってコード化されているタンパク質が( 異常な )メチル基を除去できる。しかし,このタンパク質は一度だけ修復可能で,いくつかのメチル基を除去しようとするとその分に見合うこのタンパク質分子が必要となる。

このことが,異常箇所を直接取り消す方法が極めて無駄が多いものであるという,DNA 修復における問題を示している。塩基に対する多くの化学的な変化に対応できるそれぞれの修復機構が必要となってしまう。細胞は,限られた資源の中ですべての化学的損傷に対する修復機構をもつ必要がある。この要求に合った機構が除去修復 excision repair である。

 

塩基除去修復 Base Excision Repair ( BER )

以下のように進行する:

  1. DNA グリコシラーゼによって損傷塩基が除去される。
    我々の体を構成する細胞では 1 日に約 20,000 回起こると推定される。
    我々は少なくとも 8 種類の DNA グリコシラーゼをコード化する遺伝子をもち,これらは塩基のいろいろな損傷を同定して,除去するのに反応する。
  2. DNA 本体の相当するデオキシリボース核酸を除去して,ギャップをつくる。
    我々は,これらの機能を持つ酵素をコード化する遺伝子を 2 個もっている。
  3. 正しいヌクレオチドと置換される。
    この過程は DNA ポリメラーゼ・ベータ によって行われる。我々がもつ 11 種類の DNA ポリメラーゼのうちの 1 つである。
  4. DNA 鎖切断点が結合される。
    2 種類の酵素が知れれており,どちらも ATP がエネルギーとして利用される。

 

ヌクレオチド除去修復 Nucleotide Excision Repair ( NER )

NER はいくつかの点で BER とは異なる:

  • 用いられる酵素が異なる。
  • たった 1 個の塩基を修復する場合でも,隣接する多くのヌクレオチドと共に問題のヌクレオチドが除去される。すなわち,NER は損傷の周囲の広範囲を除去する機構である。

以下のように進行する:

  1. 損傷部位で形成された 1 種類または 2 種類のタンパク質によって,損傷が認識される。
  2. DNA はその部位で巻き戻しが起こり,バブル構造 ( 分子的な膨らみ ) を示す。この過程に必要な酵素系は 転写調節因子 IIHTFIIH ( これは通常の 転写 にも用いられている ) である。
  3. 損傷部位を含む広範囲が除去されるために,その 3′ 部位と 5′ 部位の両方が切断される。
  4. DNA の新たな合成が一時的に起こる。この場合正しい塩基が含まれている反対側の DNA 鎖がテンプレートとして用いられる。この時用いられる DNA ポリメラーゼはポリメラーゼ・ デルタ とポリメラーゼ・ イプシロン である。
  5. DNA リガーゼ によって新生部分が DNA 本体に結合される。

 

色素性乾皮症 Xeroderma Pigmentosum ( XP )

XP はヒトの 遺伝病 の希な例である。その症状は以下の通りである:

  • 日光に当たった部分の皮膚が色素性の病斑となる。
  • 高率で皮膚ガンになる。

XP は NER において必要な酵素をコードする遺伝子のうちのいくつかの突然変異によって起こることが分かっている。それらには以下が含まれる:

  • XPA – これは,損傷部位に結合して,NER に必要なタンパク質合成を促進するタンパク質をコード化している。
  • XPB と XPD – これらは転写調節因子 IIH の一部として働く。 XPB と XPD における突然変異の中には早老症の症状を示すものもある。[ 早老症についてはこちら ]
  • XPF – これは DNA 本体を損傷領域の 5′ 側で切断する。
  • XPG – これは DNA 本体を損傷領域の 3′ 側で切断する。

 

転写と連動したヌクレオチド除去修復

以下の条件で,ヌクレオチド除去・修復が最も急速に進行する:

  • 遺伝子の転写が活発に行われている細胞において,
  • 転写 のテンプレートとして用いられている DNA 鎖において

この NER の昂進において, XPB, XPD や他のいくつかの遺伝子産物の産生もおこる。これらの 2 つの遺伝子は CSA と CSB と呼ばれている( これらの突然変異は コケーン症候群 Cockayne’s syndrome と呼ばれる遺伝病の原因となる )。

CSB タンパク質は,核内で メッセンジャー RNA ( mRNA ) を合成するのに必要な RNA ポリメラーゼ II と共に,転写と修復を連結させる分子の生産に関わる。

1つの考えられる機構:テンプレート( アンチセンス鎖 )に沿って RNA ポリメラーゼ II が移動し,損傷塩基と遭遇した場合には,それが他のタンパク質,たとえば CSA タンパク質と CSB タンパク質を補充し,遺伝子の転写が完了する前に急速に修復してしまう。

 

不一致塩基の修復 Mismatch Repair ( MMR )

不一致塩基の修復によって,塩基のミスマッチ(すなわち,Watson-Crick の塩基対合 ( A.T,C.G ) のルールに沿わない組み合わせ)が修正される。

この時,この機能のために用意された酵素群だけでなく,塩基除去修復 ( BER ) とヌクレオチド除去修復 ( NER ) の両者に含まれる酵素の助けも借りている。

ミスマッチ箇所の認識には,以下によってコード化されているいくつかのタンパク質が関与している:

  • MSH2
  • MLH1

これらの遺伝子のどちらかに突然変異が起こると,遺伝性の 大腸ガン に罹りやすくなる。 したがって,これらの遺伝子は ガン抑制遺伝子 とみなされている。

ヌクレオチド除去修復 ( NER ) において用いられている同じ酵素( DNA ポリメラーゼ・デルタとイプシロン )によって,修復部分が合成される。

細胞内では,組み換え が忠実に行われるようにも不一致塩基修復( MMR )系が利用されている。すなわち,減数分裂時に2本のDNA 分子対の相同部分でのみ乗り換えが起こり,組み換えが行われるように利用されている。

 

切断鎖修復

電離放射線ならびに特定の化学物質によって DNA 本体の一本鎖切断 ( SSBs ) あるいは二本鎖切断 ( DSBs ) が起こる。

 

一本鎖切断

DNA 分子の一本鎖に起こる切断は塩基除去修復 ( BER ) に用いられる同じ酵素システムを利用して修復される。

 

二本鎖切断

DNA 分子が完全に切断された場合に,細胞は以下の 2 つの機構によって修復しようとする:

  • 切断端の直接結合 – これには,切断端を認識し結合して,それぞれを結合のために引き合わせるタンパク質が必要となる。相補的なヌクレオチドがある方が確実であるがそれがなくても結合か起こる。そのため,この結合の様式は 非相同端結合 Nonhomologous End-Joining ( NHEJ ) とも呼ばれる。
    Ku と呼ばれるタンパク質が NHEJ に必ず必要である。 Ku は Ku70 サブユニットと Ku80 サブユニットのヘテロダイマーである。 2001 年 8 月 9 日号の Nature で, Walker, J. R. らが DNA に結合した Ku の三次元構造を報告している。 DNA の切断端を結合のために一直線に配列させているタンパク質の様子が示されている。

    直接結合におけるエラーは様々な転座を起こし,いろいろなガンの原因となる。

    例:

    • バーキット・リンパ腫
    • 慢性骨髄性白血病 ( CML ) におけるフィラデルフィア染色体
    • B-細胞白血病

     

    抗体の多様性が生じる仕組み

    直接結合による二本鎖切断の修復に用いられる酵素の一部は,抗体の多様性を生むための機構でも用いられている:

    • 抗体の可変領域; これは V ( D ) J 領域結合によって可能となる。
    • 異なる 抗体の種類; これは H 鎖の領域切り替え によって可能となる。
  • 相同的組み換え この場合,切断端は以下の染色体上にある正常な情報を基に修復される。
    • 姉妹染色分体 ( 染色体複製後の G2 期に見られる ), または
    • 相同染色体 (すなわち,G1 期:各染色体が複製される直前の時期にみられる)。この場合には,核内でホモログを探して,修復することになる。たいてい G1 期の細胞において NHEJ により二本鎖切断が修復されるようである。

    相同的組み換えに用いられるタンパク質のうちの 2 つが BRCA-1 と BRCA-2 によってコード化されている。これらの遺伝子の遺伝性の突然変異によって,女性が乳ガンや卵巣ガンになりやすいことが知られている。

     

    減数分裂でも起こる二本鎖切断

    第 1 減数分裂 における相同染色体間の組み換えによって,二本鎖切断が起こり,それが修復される。この過程にも,同じ酵素群が利用されている。

    染色体の乗り換えについてはこちら

 

ガンの化学療法

  • すべてのガンに共通した特徴は細胞分裂が継続したままになることである。
  • 各分裂には,以下の2つの過程が必須である:
    • 細胞の DNA の 複製 ( S 期 において起こる )。
    • 多くの遺伝子の転写と翻訳( 細胞の増殖が続くために必要である )。
  • したがって,DNA に損傷を与える化学物質はガンの増殖を抑制する可能性をもつ。
  • ガンの治療に用いられる多くの( すべてではない )薬剤は DNA に損傷を与えるように働く。
  • ガンの患者では,他の多くの細胞種も盛んに増殖を続けている。たとえば,以下の組織に含まれる細胞である:
    • 腸の上皮
    • 骨髄
    • 毛包

    そして,残念なことに抗ガン剤はこれらの細胞にも損傷を与えてしまう。つまり,多くの好ましくない副作用が生じてしまう。

表には DNA を標的として抗ガン剤の一般名と商品名をいくつか示した。

Cyclophosphamide Cytoxan® アルキル化剤; DNA 鎖間の塩基の共有結合またはクロスリンクを起こす
Melphalan Alkeran®
Busulfan Myleran®
Chlorambucil Leukeran®
Mitomycin Mutamycin®
Cisplatin Platinol® クロスリンクを形成する
Bleomycin Blenoxane® GT または GC 間の DNA 鎖を切断する
Dactinomycin Cosmegen® 二重らせんの巻き戻しを阻む

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February 05, 2020

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