20200506

旧石器時代のオオカミ復元 ニホンオオカミより大型


2020.05.06

約3万6000年前の旧石器時代の日本列島に生きていたオオカミの姿が、化石化した頭蓋骨の科学分析に基づいて初めて復元され、20世紀初めに絶滅したとされるニホンオオカミよりも大型だったことがわかった。

国立科学博物館の甲能(こうの)直樹・生命進化史研究グループ長(哺乳類古生物学)らの研究チームの成果だ。国立歴史民俗博物館が所蔵している、古生物学・考古学者の直良(なおら)信夫(1902〜85年)が収集した動物骨の資料群を精査し、このオオカミの頭蓋骨に注目して分析した。直良は「明石原人」「葛生(くずう)原人」の存在を提唱し、松本清張の小説「石の骨」の主人公のモデルになったことでも知られる。この資料は直良が栃木県佐野市の葛生で収集したもので、本格的な分析は今回が初めてだ。

研究チームによる放射性炭素年代測定の結果、約3万6000年前の後期旧石器時代のオオカミのものと特定された。また、X線CT(コンピューター断層撮影法)を用いて精密な計測を行って得られたデータを基に、欠損部分を補って頭蓋骨の本来の姿を復元した。さらに、復元した姿のデータを、現生のオオカミやニホンオオカミの骨のデータと比較し、体全体の大きさを推定した。

その結果、このオオカミは体高約70センチ、体長約120センチだったと考えられ、体高56〜58センチとされるニホンオオカミを大きく上回ることがわかった。甲能グループ長は、「ニホンオオカミの起源はわかっておらず、旧石器時代を含む更新世から日本列島にいたオオカミが祖先とも言われてきたが、形態が大きく異なることが今回はっきりし、別系統だった可能性が高まった」と話す。復元模型は、歴博の今後の常設展(現在、新型コロナウイルスの影響で休館中)で公開する予定だ。

研究チームは、耳の骨から抽出したDNAの分析も進めており、結果によってはオオカミの起源がよりはっきり見えてきそうだ。

研究チームの学習院女子大の工藤雄一郎准教授(先史考古学)は、「旧石器時代のナウマンゾウやバイソンなどの復元例はあるが、オオカミが科学的根拠に基づいて復元されるのは初めて。当時の暮らしを考える上で、これだけ大きなオオカミが旧石器人の近くにいたことが実感できる意味は大きい」と話している。(文化部 清岡央)

写真=復元された旧石器時代のオオカミ(右)。左は縄文時代の犬(工藤准教授提供)

《読売新聞 2020/04/23 より引用》