[スキャナー]鳥インフル 列島厳戒 殺処分464万羽 鶏舎防疫不備も
2020.12.31
◇SCANNER
国内の養鶏場で今季、高病原性の鳥インフルエンザが猛威をふるっている。11月上旬の初確認以降、西日本を中心に発生は13県に拡大している。殺処分の対象は過去最多となり、500万羽目前だ。「全国どこでも起こりうる」との懸念が広がっている。(社会部 今泉遼、千葉支局 小杉千尋)
■西日本と同型
「本当に青天のへきれき。まさかと思った」。今月25日、記者会見した千葉県の森田健作知事は驚きを見せた。
千葉県では23日、太平洋に面した外房のいすみ市の養鶏場で鶏220羽が死んでいるのが見つかり、鳥インフルエンザの陽性反応が出た。遺伝子解析の結果、致死率の高い高病原性の「H5N8亜型」と判明。西日本で見つかったのと同じ型で、感染が東日本にも拡大した。
鳥インフルエンザは、家畜伝染病予防法に基づく防疫指針により、ウイルスの拡散を防ぐため発生養鶏場の全羽が殺処分の対象となる。この養鶏場は県内最大規模の約116万羽の採卵鶏を飼育。災害派遣要請で出動した自衛隊の手を借りても、来年1月7日までかかる。
いすみ市と同じ外房の匝瑳(そうさ)市で養鶏場を経営する林共和さん(47)は「いつ他に感染が広がってもおかしくない」と警戒する。
■数年おき
鳥インフルエンザは、国内では2004年に79年ぶりに確認された。以降、数年おきに発生している。
農林水産省によると、海外では鳥インフルエンザに感染した人の死亡例があるが、国内で感染例はないという。発生した養鶏場に加え、周辺の関連農場の鶏も殺処分され、感染の可能性のある鶏の卵や肉は、そもそも市場に流通しないと農水省は説明する。
今季は11月5日に、香川県三豊市の養鶏場で初めて確認された。その後、福岡県や兵庫県でも感染が明らかになり、28日時点で計13県の32養鶏場に広がっている。29日には宮崎県で、県内9例目となる陽性反応を示す鶏が出た。今季の殺処分数はすでに約464万羽に上り、これまで最多だった10年度の約183万羽を大きく上回る。
■欧州由来
今季、確認されている「H5N8亜型」のウイルスは、10月下旬には北海道や韓国で野鳥のふん便から検出されていた。農研機構(茨城県つくば市)が、香川県で発生した1、2例目のウイルスの遺伝子を解析したところ、昨季、欧州で流行したウイルスと近縁であることが判明した。
農水省は、欧州由来のウイルスを持った野鳥が徐々に東へと移動し、シベリアや朝鮮半島を経由して今秋以降、日本に飛来し持ち込んだ可能性が高いとみている。
一方、鹿児島大の研究グループは今月下旬、国内最大のツルの越冬地・鹿児島県出水市の田んぼの水から、これまで国内で確認されたものとは別の系統のウイルスを発見したと明らかにした。遺伝子の配列が今季、欧州で蔓延(まんえん)しているウイルスとほぼ一致したという。
小沢真准教授(ウイルス学)は「昨季と今季の二つのウイルスが持ち込まれている可能性がある。今季のウイルスは死ぬ野鳥が多いと聞いており、今後一層の監視が必要だ」と話す。
■小動物が媒介
野鳥から養鶏場へウイルスを運んでいるとみられるのが、ネズミやスズメなどの小動物・小鳥だ。ウイルスに感染した野鳥の死骸を食べるなどし、媒介する。
しかし、農水省が今月、都道府県を通じ全国約7700の養鶏場を調査したところ、約1割の養鶏場で、野生動物の侵入を防ぐネットを設置していなかったり、鶏舎ごとに靴を取り換えていなかったりした。
鳥取大の山口剛士教授(動物衛生学)は「渡り鳥の飛来は防げず、養鶏場内にウイルスを入れないことが重要。全国どこでも発生リスクがあることを認識し、鶏の異常を早めに察知して影響を最小限に抑える必要がある」と訴える。
◆鶏卵輸出に影響か
鳥インフルエンザの感染拡大は今後、鶏卵・鶏肉の輸出に影響が出る可能性がある。
財務省の貿易統計によると、鶏卵の輸出は近年、右肩上がりだ。2015年に6・2億円だった輸出額が、今年は10月までで37・5億円に上っており、過去最高となっている。輸出先の97%を占めるのが香港。日本の鶏卵は割高だが、衛生管理が行き届いていると評判で、新型コロナウイルス禍で家庭での消費の伸びが影響しているとみられる。
一方、鶏肉の輸出先は香港とカンボジア、ベトナムで、年間20億円前後で推移している。
現在、鳥インフルエンザが発生した13県からの輸出は、カンボジアを除きストップしている。再開は相手国との個別交渉になるが、農林水産省によると、国際基準や過去の事例では、殺処分や埋却、消毒などの防疫措置完了から3か月間、新たな発生がなければ認められるケースが多い。
国内での流通や価格には、まだ影響は見られない。畜産統計によると、国内で飼われている採卵鶏と肉用鶏の数は計3億2315万羽で、殺処分されたのは、その1・4%だ。農水省の担当者は「今後、さらに流行が拡大すれば影響が出るかもしれない」としている。
〈鳥インフルエンザ〉
A型インフルエンザウイルスが引き起こす疾病。呼吸器障害が表れ、産卵率が下がることがある。ウイルス表面のたんぱく質(H、N)の種類により、「H5N8亜型」などと分類され、さらに毒性が強い「高病原性」と比較的弱い「低病原性」などに区分される。

図=養鶏場で高病原性鳥インフルエンザの発生が確認された13県

図=野鳥を介したウイルスの侵入経路

図=鶏卵、鶏肉の輸出額の推移

写真=鳥インフルエンザの発生が確認された千葉県いすみ市の養鶏場。約116万羽が殺処分となる(24日午後、本社ヘリから)=早坂洋祐撮影
《読売新聞 2020/12/31 より引用》