20210203

外食・小売り 試行錯誤 緊急事態延長 朝焼き肉・薬宅配 「新事業」


2021.02.03

 政府が10都府県で緊急事態宣言の期限を延長し、飲食店や小売店は厳しい経営環境が続く。収益を維持するため、各社は商品やサービスの提供に工夫を凝らしている。宣言解除後も見据え、新たな客層を取り込もうとしている。

■朝7時開店

焼き肉チェーン「焼肉ライク」の新橋本店(東京都港区)では2日午前、1人1台のロースターを前に、数人の客がカルビを注文した。男性会社員(30)は「仕事が休みのため、朝ご飯を食べに来た。一人で手早く食べられるので便利だ」と話した。

「朝焼肉セット」は、カルビ100グラムにライスとスープなどで税込み550円。朝から焼き肉を提供する試みは昨年8月に始め、緊急事態宣言の再発令に合わせて約15店に増やした。新橋本店は平日午前7時に開店しており、朝だけで毎日50人程度が来店するという。

高田慎一郎店長は「前回の緊急事態宣言時には売り上げが大きく減ったが、『朝焼肉』を始めて回復した」と語る。

焼き肉店やしゃぶしゃぶ店は、卸業者とのつきあいや畜産農家との契約もあり、食材の注文を簡単に減らせない。別の都内飲食店店主は「売れ残ったら自分で食べるしかないのが現実」と打ち明ける。こうした事情もあり、売り上げの維持に力が入る。

■売れ残り野菜

飲食店向けに売れ残った食材を、個人客に売る取り組みもある。

青果卸「フードサプライ」は、東京・大田市場近くの京浜島にある倉庫街で、産直野菜の販売を1月9日に再開した。昨年4月に始めたが、「Go To イート」で飲食店の注文が回復し、中断していた。

白菜や大根など、20種類以上の旬の野菜が段ボール箱入りで税込み3500円。客は自動車に乗ったまま窓越しに代金を支払い、スタッフが荷台に積み込む「ドライブスルー方式」としている。

フードサプライの竹川敦史社長は「緊急事態宣言の延長は大きな損害になる。廃棄を避けて、何とか売り切りたい」と意気込む。

■ウーバーと

ローソンは2日、東京都内の3店舗で、宅配サービス「ウーバーイーツ」を使って市販薬を届けるサービスを4日に始めると発表した。外出自粛が広がっていることを受け、自宅で医薬品を受け取りたいという客の声に応える。

対象は、市販薬の中で副作用のリスクが最も高い「第1類」を除く、「第2類」と「第3類」。風邪薬や目薬、胃腸薬、湿布など約50種類を用意する。店内に「登録販売者」がいる時間帯に限って購入できる。

客はウーバーイーツのアプリで、対象店舗と商品を選ぶ。注意事項の説明を確認し、アレルギーの有無や年齢といった質問に答えた後、カートに入れる。薬の購入に関する相談は、電話で受け付ける。

ローソンはウーバーイーツと提携、全国の店舗の1割にあたる約1500店で弁当やおにぎりといった商品を宅配するサービスを行っている。薬を販売している店舗は約250店あり、売り上げ動向などを見て薬の宅配を広げたい考えだ。

◆「買いだめパニック」起きず

現在、昨春の緊急事態宣言時のようなパニック的な買いだめは起きておらず、冷静な消費行動が続いている。

経済産業省がPOS(販売時点情報管理システム)のデータなどを分析したところ、コメやパスタなど「主食」のスーパーの販売額は、1月18〜24日が前年同期比2・2%増。昨年4月6〜12日の25・4%増に比べて増加率は小さい。

前回はトイレットペーパーやマスクの買いだめが起きたほか、小中学校が休校となった地域では、家庭で子ども用の食材を早めに確保しようとする動きも出た。今回はこれらが品薄になる事態にはなっていない。

商品の売れ筋にも変化が見られる。スーパー大手のイオンリテールの担当者は「コメやカップ麺などの保存が利く食材から、1、2週間ストックできる野菜や冷凍食品などに変わっている」と説明する。

◇スーパーでの主な商品の販売動向

 前回の緊急 事態宣言時 (20年4月  6〜12日)今回 (21年1月  18〜24日)
主食 (コメ、パスタ)25.4  2.2
調味料22.2  6.3
加工食品 (冷凍食品、 缶詰)    22.1  7.9
アルコール飲料10.9  6.8
紙製品 (トイレット ペーパー)26.3▼8.5
健康関連品 (マスク) 8.1▼0.8

 (経済産業省のPOS小売販売額指標。

数字は前年同期比増減率%、▼は

マイナス。カッコ内は主な品目例)

写真=朝焼肉セットを提供している「焼肉ライク」の店内(2日、東京都港区で)=須藤菜々子撮影

《読売新聞 2021/02/03 より引用》