20220104

[スキャナー]AI・ロボが農畜産効率化 アグリテック


2022.01.04

◇SCANNER

図=アグリテックの主な事例

◆収穫時期見極め 担い手不足対策

農畜産業に先端技術を取り入れる「アグリテック」に注目が集まっている。人手不足や増加が見込まれる食料需要に対応するため、効率的な生産が求められていることが背景にある。技術革新を追い風に、企業の参入が相次ぐ。(経済部 一言剛之、中西瑛)

■「豚ホテル」

鹿児島県のある豚舎では、カメラが天井のレールに沿って自走し、豚を1匹ずつ撮影して回っている。このシステムを開発した新興企業「エコポーク」の神林隆社長(44)は、「カメラ1台で、必要な豚の情報をほぼ把握できる」と胸を張る。

撮影は光学カメラと赤外線を同時に使う。人工知能(AI)で分析し、豚の体重や肉質を測定する。細かな特徴や挙動から心拍数をはじめ体調に異常がないかも管理できる。

国内の養豚農家は、1戸当たり平均約2400頭を飼育しており、世話に膨大な手間がかかる。さらに、年間約100万頭が出荷前に病気などで死ぬとされる。神林氏は「手が回らない部分はAIに任せればいい」と意気込む。

養豚業は世界出荷が年間15億頭に達する巨大産業だ。先端技術で生産の効率を向上させる余地は大きく、企業はビジネスチャンスを見いだしている。

中国のIT大手・華為技術(ファーウェイ)は「豚ホテル」の実用化を目指す。体調データをAIで分析。豚舎の空調管理を自動で調整するなど、豚にとって心地よい環境を提供する。NECやNTTといった国内大手も、養豚向けの画像分析を研究し、成果を競っている。

■海外進出へ

図=世界の穀物消費量

日本は人口減少に伴う農業の担い手不足が問題になっている。解決に向けた試行錯誤が、日本企業の強みとなり、海外進出を促す。

神奈川県鎌倉市の新興企業「イナホ」は、ミニトマトやアスパラガスを収穫するロボットを開発した。画像で収穫期の作物を見極め、農家の手間を減らす。強力な太陽光にさらされる日中から補助光を使う夜間まで、様々な条件で使える画像解析の技術を持つ。

2020年にオランダで拠点を設け、欧州の畑に合ったロボットの開発と実証試験を進めた。日欧両拠点で実用化にめどを付け、22年度からレンタルを始める。

自動収穫ロボはパナソニックやデンソーなど大手も手がける。イナホの菱木豊社長(38)は「22年は、『収穫ロボ元年』になる」と、競争激化を予想する。

写真=豚の体調を管理するカメラを取り付ける神林社長(東京都墨田区のエコポークで)

農業系企業「KAKAXI(カカシ)」が開発したのは、農地の天候データと画像を記録する無人カメラ。海外を見据えて15年に本社を米カリフォルニア州のシリコンバレーに移した。カメラは太陽光発電で稼働し、携帯電話の通信網でデータを外部のデータセンターに送る。利用者は専用アプリで農地の状況を把握できる。機能を絞り、競合他社よりも大幅に安くした。

大塚泰造最高経営責任者(CEO)(44)は渡米し、各地の商品発表会で「カメラで撮影し続けることは、消費者に安心を届けること」と説明してきた。ネスレやコカ・コーラといった巨大食品企業からの問い合わせが相次いでいるという。

■世界の人口増

世界人口の増加で、将来的な食料不足が懸念される。農林水産省によると、世界の食料需要量は50年に69・3億トンと、00年の1・6倍に増加する見込みだ。畜産物の消費増は顕著で、家畜の餌となる穀物にも影響が広がる可能性がある。米農務省の調査では、穀物消費量はこの20年間で1・5倍に膨らんだ。

革新的な生産は世界的な課題となっている。アグリテックに活路を見いだす動きは、これから一段と加速しそうだ。

◆労働時間「2〜4割減」 国実証事業 高価な機械 農家に負担も

農林水産省は、アグリテック(スマート農業)を推し進めている。生産性を高めることで、国内農業の未来を守る狙いがある。

農水省によると、普段の仕事として主に農業を営んでいる人は、2020年に136万人と、1960年の1175万人から9割近く減った。平均年齢は67・8歳と高齢化が進み、労働力不足が深刻化している。

農機メーカーが注力しているのが、自動走行で農地を耕すトラクター。開発競争が繰り広げられる民放ドラマで近年、話題になった。誤差数センチの精度で車両の位置を特定する「準天頂衛星」の運用が始まり、実用化された。

ドローンの活用も盛んになっている。一例は、上空から生育状況を確認し、必要な場所に肥料を追加する取り組みだ。適量に調節して環境負荷を抑えることもできる。

農水省は自動トラクターやドローンによる農薬散布などを取り入れた実証事業を進めた。その結果、野菜や果実の栽培にかかる労働時間を2〜4割削減することができたという。

ただ、高価な農機の導入につながるため、かえって利益が減った事例が目立つ。アグリテックを広げるには、農家の負担をどれだけ軽くできるかがカギを握る。

〈アグリテック〉

農業(アグリカルチャー)と技術(テクノロジー)の英単語を掛け合わせた造語で、畜産業や林業も対象に含まれる。スマート農業とも呼ばれる。活用する主な技術として、人工知能やロボット、ドローンがある。

 《読売新聞 2022/01/04より引用》