福大など発見 雄ジカ 遺伝的に系統分け 生息分布ごとに=福島
2022.02.21
◆食害防止にも期待
福島大などの研究グループは、雄のニホンジカの生息分布を系統分けできる遺伝的性質を見つけたと発表した。広範囲に移動するとされる雄ジカが、どこから来たかなどを推定する材料になる。行動パターンを把握することで各地で生息するシカの数を適切に管理し、農作物の食害を防ぐことも期待される。生態学国際誌に掲載された。

ニホンジカの系統を分類したり生息分布を把握したりする方法は雌の遺伝情報を受け継ぐ「ミトコンドリアDNA解析」が主流で、雄の遺伝情報を基に分析する方法はなかった。同大共生システム理工学研究科の高木俊人さんと兼子伸吾准教授は、これまでに全国8か所で採取された雄のニホンジカ107個体分の遺伝情報を分析した結果、生息地域によって異なる遺伝的性質を持つことがわかった。
環境省によると、ニホンジカの生息域は特に東北地方で拡大し、1978年度から2018年度は約2・7倍に広がった。兼子准教授は「他地域から流入した個体を駆除しても、流入元の個体数を減らさなければ、再度流入した個体により、すぐに駆除前の個体数に戻る」と指摘する。
今後はサンプルを増やすことで、繁殖経路や他地域間での交雑の過程をより詳細に解明していく。兼子准教授は「全国各地で食害や人里への侵入が課題となっている。今後の個体管理につながるよう研究を進めていきたい」と話した。
◆南会津 日光以外からも流入か
南会津地域で急増するニホンジカが、これまで主流と考えられていた栃木県日光市南部にある「日光国立公園」とは別の地域からも流入していたことがわかった。福島大の兼子准教授らの研究グループが遺伝情報を解析し、同公園内に生息するシカとは別系統のシカが生息していることを確認した。
県自然保護課などによると、南会津町や下郷町、昭和村などの南会津地域では、2000年代後半からシカの目撃が増え、捕獲数は07年度の64頭から19年度の779頭まで急増。県内のシカによる農作物被害も20年度は約720万円と、11年度の約20万円から30倍以上にまでふくれあがっている。
環境省国立公園課によると、08年頃から始まった日光国立公園や尾瀬国立公園周辺のニホンジカに対するGPS(全地球測位システム)の首輪を用いた個体調査の結果によって、南会津地域のニホンジカは、主に日光国立公園から流入してきた個体が数を増やしてきたものと考えられてきた。
共生システム理工学研究科の藤間理央さん(博士後期課程2年)と兼子准教授は、遺伝情報の解析による分布調査を南会津地域のニホンジカで初めて実施。雌のみの遺伝情報を受け継ぐミトコンドリアDNAを同地域や日光市全域に生息する119個体で解析した。
その結果、南会津地域の58個体のうち、37個体が日光国立公園内の個体で多くみられた遺伝的性質を示さなかった。日光市北部や尾瀬国立公園などから流入した個体が南会津地域で数を増やしているとみられる。
同大は今後、雄ジカの遺伝的性質を使い、更に詳細な繁殖経路などを調査するという。兼子准教授は「急増するシカは南会津で深刻な問題。被害を受けている人たちの助けになればうれしい」と話した。
哺乳類の遺伝学に詳しい森林総合研究所の大西尚樹動物生態遺伝チーム長(保全遺伝学)の話「近年、遺伝情報を使った哺乳類の生態分布が注目されている。雄特有の遺伝的性質を見つけたのは世界的にもとてもめずらしい。他の哺乳類で応用が進められる先駆的な研究だ」
《読売新聞 2022/02/21より引用》