ウイルス封じは無理でも…早い殺処分は効果 鳥インフル
2011年01月27日7時12分
「敵」は、自由に飛び回る野鳥によって各地に運ばれる。宮崎、鹿児島、愛知。鳥インフルエンザのウイルスを完全に封じ込めるのは不可能だ。今のところ感染は「点」にとどまるが、「面」に広げぬよう、全国の養鶏場では緊張の日々が続く。
「今のところ、発生は面でなく点ですんでいる」。農林水産省の幹部は26日、こう強調した。同日までに高病原性と確認されたか、その疑いが出た養鶏場は4県5カ所。宮崎市と宮崎県新富町を除き、距離的に離れている。農水省は、宮崎県の2カ所も、いまのところ共通点が見当たらないことから別々の発生との見方を強めている。
発生地の多くは養鶏場の密集地帯だが、周辺での爆発的な感染はみられない。宮崎県内で昨年、牛や豚が感染した伝染病・口蹄疫(こうていえき)との違いだ。
今回の鶏の場合、素早い殺処分が功を奏している面もある。簡易検査で陽性となった段階で、農水省と各県は遺伝子検査も「クロ」という前提で全羽の殺処分の準備に入っている。鹿児島県出水(いずみ)市の場合、遺伝子検査の結果が出た26日午前3時と同時に処分を開始。約5時間後に全約8400羽の処分を終えた。
だが処分が早くても、最初の通報自体が遅れるとその間に感染拡大の恐れは高まる。出水市や愛知県豊橋市の例では大量死が始まってから通報までに2~3日かかっており、鹿野道彦農水相は「迅速な通報を繰り返しお願いする」と話している。
今回、新たに鳥インフルの疑いの出た愛知県豊橋市の鶏舎は、窓がない「ウインドレス」型。2004年に国内で初めて養鶏場で鳥インフルが発生して以降、野鳥や小動物の侵入を防ぎやすく空調もできる同型の導入を、国は養鶏農家らに推奨してきた。だが、換気扇があるほか、作業員の出入り口は必要で、外部との完全な遮断はできない。コストもかかるため普及が遅れているという。
今季、鳥インフルが発生した島根県などほかの養鶏場はいずれも、防鳥ネットを壁代わりにした「開放型」だ。感染した野鳥や、ウイルスが付着した小動物が鶏舎内に入り込むのを防ぐには、業者は防鳥ネットの破れなどの点検を徹底するしかない。国は「網目の大きさは2センチ四方以下が望ましい」とする。
そもそもウイルスの「運び屋」とみられる野鳥は、自由に飛び回るため管理が難しい。殺処分や捕獲・隔離による「ウイルスの封じ込め」は不可能というのが、野鳥を所管する環境省の見解だ。
宮沢俊輔・鳥獣保護業務室長は「捕まえようとすれば他地域へ逃げて、かえってウイルス拡大につながる恐れがある。そもそも大規模な飛来地には1万羽以上いる野鳥を、1羽残らず捕まえて殺処分したり、隔離したりするのは無理」と話す。
■通報遅れや態勢不備 経験生かし切れず
今回感染が確認された3県は、過去にも鳥インフルエンザが発生したことがある。感染防止に力を入れてきたが、ウイルスは防衛網を突破した。
顔が赤く腫れた鶏がどんどん死んでいく――。
愛知県豊橋市の採卵鶏農場から、県東部家畜保健衛生所に電話連絡が入ったのは26日朝。大量死が始まって3日目だった。農場側は「別の病気かもしれないと思った」と説明しているという。
県は緊急時に備えて24時間連絡のつく態勢をとっていたが、「緊急」か否かの判断や、どのタイミングで通報するかは農家に任されていた。また、農林水産省によると、発生現場の鶏舎に窓はないが、換気扇などがあり、ハエなども含め野生動物の侵入はあり得るという。
鶏、豚、肉用牛の産出額がすべて全国1位(2009年)の「畜産王国」鹿児島県。出水市の越冬中のナベヅルから鳥インフルが確認された昨年12月の時点で対策本部を置き、鶏への飛び火を警戒してきた。養鶏場にも「早めの通報」を呼びかけてきた。
だが25日に感染が分かった出水市の養鶏場では、6日前の19日から連日、鶏が相次いで死んでいたにもかかわらず、通報が遅れた。こちらも獣医師が解剖の結果、鳥インフルとは異なる「卵墜症(らんついしょう)」と診断したためだったという。
昨年、口蹄疫で牛や豚など約29万頭を殺処分した宮崎県は、鳥インフルを警戒して養鶏場への立ち入り検査にも念を入れていた。だが、口蹄疫対策に人手が取られる中で「見落とし」があった。
21日に鳥インフルが発生した宮崎市の養鶏場は、昨年末の立ち入り調査では「問題なし」とされていたが、発生後の調査では、防鳥ネットに破れやすき間が見つかった。
昨年末の調査は、農水省としては県や第三者による実施を想定していたが、県は対象の76%にあたる752養鶏場で、当事者である養鶏場の関連会社などに任せていた。宮崎市の養鶏場も、その一つだった。県は「口蹄疫からの復興対策に職員がとられていた」と説明する。
ただ農水省の疫学調査チームによると、この養鶏場の死骸は、出入り口そばで多く見つかっている。通常、野生動物は人に見つかりにくい鶏舎の奥に入り込むとみられ、ウイルスが人に付着して侵入した可能性もあるという。
また23日に感染が確認された宮崎県新富町の鶏舎では、作業員が鶏舎に入る際に作業用の長靴に履きかえず、普段のスニーカーなどのまま入っていたという。
《朝日新聞社asahi.com 2011年01月27日より引用》