卵子ビジネス、米で浸透 特定の提供者に高額謝礼も
2010年12月06日
- 米コロンビア大構内で、女子学生に卵子提供を呼びかけるポスター。謝礼は8千ドル(約66万円)だ=10月、ニューヨーク、勝田写す
- 第三者からの卵子提供イメージ
「子どもがほしい」という夫婦の思いを他人からの卵子提供でかなえる。日本では家族関係が複雑になるなどの懸念からほとんど取り組まれていないが、米国では保険もきく一般的な不妊治療として定着している。提供者への謝礼が300万円近くに達することもある。日本からも多くの人が向かう、そんな「卵子ビジネス」の現場を見た。 「他の女性が妊娠できるよう助けてあげてください」
ニューヨークにある名門大学、コロンビア大のキャンパスには、こんなポスターが張られている。同大学産科婦人科学教室が、学生に卵子の提供を呼びかけるものだ。
提供できるのは21~32歳で謝礼は8千ドル(約66万円)。米生殖医学会の倫理委員会は2007年、「5千ドルを超える謝礼は正当化する必要があり、1万ドルを超える謝礼は不適切」との指針を出している。にもかかわらず、最近の調査では、有名大の学生相手に3万5千ドル(約290万円)という広告さえあり、特定の卵子に高い価値を認める市場ができている。同大のデボラ・スパー教授は「卵子を『売る』という考え方が定着してきた」と話し、一定の歯止めが必要との立場だ。
「749番、白人、両親はルーマニア人、肌の色は(白人と黒人の)中間、瞳の色は緑……」
ワシントン近郊の医療機関はこんなリストをインターネットで公開している。卵子提供者の特徴の一覧だ。
メリーランド州の自営業リチャード・ボイドさん(58)と、エイミーさん(55)夫婦もそんな卵子を利用した。
結婚して10年たっても子どもができず、エイミーさんが44歳になったころ、医師から養子や卵子提供による妊娠を勧められた。
ボイドさん夫婦は卵子提供を選んだ。「片方の親だけでも遺伝子を引き継ぐことができる。養子の費用は約3万ドル(約250万円)だが、保険適用になる卵子提供は1万8千ドル(約150万円)だった」という。
リストを見て女性を選んだ。「私たちは目の色が違うので、どちらに合わせようかよく話し合ったわ」とエイミーさんは振り返る。
妊娠・出産は順調で、男女の双子が生まれ、10歳になる。だが、卵子提供を受けたことを彼らに告げる心の準備は、エイミーさんにはまだできていないという。
米国で卵子提供が盛んなのは、養子縁組が多く遺伝的なつながりのない親子関係に抵抗感が少ないことや、規制の少なさなどが背景にある。
一方、採卵は以前のように腹部に針は刺さないが、ホルモン剤で強制的に排卵させるなど提供者に負担がかかる。親子関係が複雑になる懸念もあり、日本産科婦人科学会は原則的に認めていない。国内法の整備も進んでいない。
96年以降、一部の大手不妊治療クリニックが独自に姉妹や友人から卵子を提供してもらう体外受精を始め、今年8月までに約70人が誕生しているが、これらは例外的だ。
そのため、8月に妊娠を発表した野田聖子衆院議員(50)のように卵子を求めて渡米する日本人も少なくない。日本人向けあっせん機関も10以上あるとみられる。
サンフランシスコに本拠を置くIFCは今年で16年目。昨年末までに約600組に卵子提供をあっせんした。受精卵を子宮に移植する費用は5万ドル(約410万円)で、妊娠する確率は8割という。
年間150組ほどにあっせんしているというロサンゼルスのLAベイビーの岡垣穣二代表は「45歳まで自分の卵子で頑張ったが妊娠に結びつかず、47~48歳で希望してくる人が多い」と話す。
LAベイビーでは、希望者は最初の訪米でリストから提供者を選ぶ。提供者の準備ができれば再び訪米し、受精卵の移植を受けて帰国し、日本で出産する。IFCの川田ゆかり社長は「女性は、卵子提供者に自分の面影や共通点を探すようです」と話す。
1回目の受精卵移植で300万~400万円の費用がかかり、妊娠に至らなかった場合、2回目以降には追加の費用がかかることが多い。これらに加えて、渡米のための航空運賃やホテル代もかかる。
岡垣さんによると、6~7割が子どもには告げないというが、「隠し通せるものではないということも説明している」と話す。(勝田敏彦=ワシントン、大岩ゆり)
《朝日新聞社asahi.com 2010年12月06日より引用》