「畜産基地」都城に衝撃 口蹄疫疑い例「なぜ飛び火…」
2010年06月10日5時30分
宮崎県などが警戒していた「飛び火」が現実となった。全国有数の畜産基地、同県都城市で9日、新たな口蹄疫(こうていえき)の疑い例が浮上した。5日前に同県えびの市で家畜の移動などの制限が解除され、明るい兆しがみえたばかり。これまでの懸命のウイルス封じ込め策は及ばなかった。隣接する鹿児島県も有名ブランドを抱える畜産地帯。「非常に厳しい状況だ」。関係者は危機感を募らせた。
「責任はとる。何とか封じ込めたい」。都城市役所4階の会議室。長峯誠市長は9日午後9時半から緊急に開かれた防疫対策会議で、幹部らに険しい表情で語りかけた。強い口調に決意がにじむ。
市は夜にも殺処分を始めようと、獣医師10人、市職員約100人を集めた。農場内に埋却地も確保できている。長峯市長は「相当なマンパワーがいる。マニュアル通りにはいかないだろうから、現場で最善の措置をして欲しい」と求めた。
県幹部らの表情にも落胆の色が濃い。「飛び火した原因が分からない。終息するだろうと考えていた。非常に残念」。午後10時から宮崎県庁で記者会見に臨んだ県農政水産部の押川延夫次長はうなだれた。
同県川南町などの口蹄疫の集中発生地帯では、発生農場から半径10キロ圏内のすべての牛や豚にワクチンを接種したうえで殺処分するという国内では例のない措置に踏み切った。4月20日の口蹄疫発生以来、殺処分された家畜は約15万頭に及ぶ。6月4日以降、新たな感染の確認は1日に1~3例にとどまっていた。
ただ、都城で新たに確認された感染疑いは、今のところ1例だけ。山田正彦農林水産相は、すみやかな殺処分で封じ込める方針を指示。全頭殺処分を前提としたワクチン接種については、「まだその段階ではない」と否定した。
発生農場から10キロ圏内には大手の食肉処理場がある。移動制限区域になれば、区域外から持ち込むこともできなくなる。
都城市と隣接する鹿児島県は「かごしま黒豚」「鹿児島黒牛」などで知られる。黒毛和牛と豚の飼養頭数はいずれも全国1位だ。特に都城市と近い大隅半島は全国有数の「畜産基地」。都城市での発生を警戒し、鹿児島県は消毒ポイント7カ所のうち6カ所を都城市と隣り合う曽於市などに集中させていた。
鹿児島県畜産課では9日夜、約30人の職員が情報収集を続けた。北野良夫課長は「都城周辺は厳重警戒地域だった。えびの市が収まり、終息の兆しも見えてきたのに、これでチャラになってしまった」。
同県鹿屋市と志布志市で計3500頭の豚を飼育する北村雅之さん(53)は「とうとう隣まで来たか。宮崎県には、県内でなんとか封じ込めてもらいたい」と不安感をにじませた。
搬出制限区域に含まれる可能性がある鹿児島県曽於市。県によると、この区域内には畜産農家約30戸が豚と牛計約1500頭を飼っているという。市畜産課の担当者は「今までは飼料配送車を中心に警戒していたが、今後は一般の車両の移動にも警戒を強めなければ」。消毒ポイントを増やすなどの対応を検討するという。
全国3位(2006年)の畜産産出額を誇る鹿屋市の石神晃二・農政部長も「自主消毒ポイントの増設など防疫態勢の強化を急ぐ」と気を引き締めた。
《朝日新聞社asahi.com 2010年06月10日より引用》