酪農・養鶏、続けたかったが 停電長引き、搾乳できず 千葉、台風が追い打ち
2019年09月30日
台風15号が直撃した千葉県で、廃業を決める酪農家や養鶏農家が相次いでいる。停電で搾乳できず、強風で施設も倒壊。小規模経営が多く、高齢化や後継者不足といった悩みを抱えていたところに、台風が追い打ちをかけた。
「苦渋の決断だ。まだ牛飼いを続けたかったが、この年齢で大きい投資をするのも……」
農業が盛んな八街(やちまた)市で乳牛約20頭を育てていた男性(72)は、50年近く続けてきた酪農をやめることを決めた。
台風によって約300平方メートルある牛舎の屋根の一部が壊れ、9日から停電。乳牛の体温を下げる大型換気扇14台が動かなくなり、飲み水に使う地下水をくみ上げるポンプも止まった。
搾乳機も使えなかったが、東京電力は当初、11日までに停電を復旧させるとの見通しを示した。それまで乗り切ろうと、搾乳できない乳牛の負担を避けるためにえさの量を少なく調整し水は近くの知人方からバケツで運び込んだ。
しかし、水は必要量の半分ほどしかあげられず、停電も13日まで続いた。搾乳できなかった乳牛は十分な乳を出さなくなり、乳質も低下。子牛を出産させれば再び乳牛として飼育できるが、それまで収入がなくなり、えさ代や牛舎の維持費を負担し続けることは難しい。後継者がいないこともあり、大半の乳牛を肉用に売りに出し、廃業を決めた。
「365日、牛中心の生活を夢中でやってきた」と振り返る男性は、こう嘆いた。「停電が長引かなければ、耐えられたかもしれないのに。こんな形でやめるのは、残念だ」
■鶏舎倒壊、再建費用重く
四街道(よつかいどう)市の戸田養鶏場に設置された採れたて卵の自動販売機には、「廃業」と書かれた紙が貼られていた。「もう卵がとれないっていうのは、寂しさがありますね」。鶏舎を撤去し終えた更地を見ながら、戸田弘一郎さん(62)はそうこぼした。
台風の強風により、ヒナが入る予定だった鶏舎3棟が倒壊。約3千羽のニワトリは無事だった鶏舎にいたが、卵を洗って大きさ別に分ける作業場の屋根が吹き飛び、半壊した。鶏舎を建て直すとしても、時間も費用もかかる。「元々もうけが少なく、新たな設備投資のコストを回収できない」と戸田さん。後継ぎもいないため、やめることにした。すでにすべてのニワトリを廃鶏業者に引き渡し、つぶれた鶏舎や作業場は業者や近隣住民の手を借りて撤去した。
敷地内の自動販売機にはいまも時折、卵を買いにくる人が訪れる。戸田さんは「うちの卵を買ってくれていたお客さんに卵を届けられなくなるのが、残念。これから先どうなるのか。不安もあるが、まだ何も考えられない」と話した。
農林水産省の畜産統計(2018年)によると、千葉県は飼われている乳用牛は全国6位、採卵鶏は全国2位の数を占める有数の畜産県だ。しかし、県内の酪農家は今年2月時点で561戸と、08年から半減。養鶏農家も125戸で、08年から3割減るなど減少傾向が続いていた。
そこに、台風が直撃。県が26日に発表した台風15号の被害まとめでは、畜舎やビニールハウスといった農業施設の被害額は計238億7千万円に上り、乳牛や採卵鶏、生乳など畜産関係で計7億4千万円の被害が出た。調査が進めば、被害額はさらに増える可能性がある。県には廃業についての相談が複数寄せられているといい、国に対し、農家の再建に向けた支援を要請している。(上田雅文、小木雄太)
【写真説明】
停電後、乳牛が売られて閑散とする牛舎=22日、千葉県八街市、上田雅文撮影
戸田養鶏場の自動販売機。廃業を知らせる紙には客からの感謝のメッセージが書き込まれていた=26日、千葉県四街道市、小木雄太撮影
《朝日新聞社asahi.com 2019年09月30日より抜粋》