「子牛がこない」農家にあせり ブランド牛サイクル混乱
2010年05月22日9時6分
- 種牛からブランド牛ができるまで
- 種牛の歴代グランドチャンピオン
よりすぐりの血統の種牛から生まれた子牛を、各地の肥育農家が買い入れ、自分たちのブランド牛に仕上げる。そんな黒毛和牛の生産サイクルに、口蹄疫(こうていえき)の影響が出始めた。九州や中国地方で市場の中止や競りの延期が相次いでいるためだ。「蓄積した飼育のノウハウがあり、産地は切り替えられない」。農家からはあせりの声があがる。
岩手県雫石町の岩手県中央家畜市場で20日、子牛の競りがあった。全国でも大規模な子牛の供給地。1頭あたりの平均価格は、前年より7万4千円高い41万4千円だった。「宮崎の影響がどうでているのか。市場には初めて見る顔も来ていました」と全農岩手県本部畜産酪農部の猪原崇次長は変化に戸惑う。
全国でも、子牛の取引価格は上昇している。農畜産業振興機構によると、5月第2週の黒毛和牛の取引平均価格は1頭あたり38万5千円で、前年5月に比べ8%高い。
和牛の9割以上を占める黒毛和牛は多くの場合、繁殖農家が子牛を生後300日前後まで育てて市場に出し、肥育農家が買い付ける。それが今回、九州各県を中心に、競りの中止や延期が相次ぎ、子牛の供給サイクルにずれが出始めた。
将来各地のブランドを背負う子牛たちの「父」として、宮崎県の種牛は、サシ(霜降り)が多く入り、成長効率もよいと、全国で評価が高い。
約500頭の「松阪牛」を育てる三重県松阪市の瀬古食品は、子牛の8割程度を宮崎県内から買っている。4月末も購入予定だったが、口蹄疫の影響で競りは中止。牛舎に約60頭分の空きができた。社長の瀬古清史さん(61)は、「このまま7月まで買い付けられないと、100頭分の空きになってしまう」。
滋賀県の「近江牛」も子牛の4割が宮崎産だ。熊本からの牛と合わせれば6割は九州。これがストップした。「農家ごとに、決めた産地から子牛を選び、育てるノウハウを蓄積している。宮崎が無理なら、すぐ他に切り替えるというわけにいかない」と同県の担当者は話す。
感染が確認されていない地域で市場を休むのは予防対策だ。出荷を待つ間に子牛は成長し、えさ代の負担も増える。島根県家畜市場では、今月予定の子牛市場を6月に延期した。「1カ月遅れることで、その分大きくなった子牛が、市場でどう評価されるのかわからない」と県の担当者は心配をのぞかせる。(長沢美津子、大谷聡)
《朝日新聞社asahi.com 2010年05月22日より引用》