豚コレラ、関東でも拡大 ワクチン接種の議論加速 農水省
2019年09月18日
昨年、26年ぶりに国内で確認された家畜伝染病「豚コレラ」が、関東地方にも拡大した。中部地方での封じ込め対策が進められてきたが、本州の一大産地をかかえる関東での発生は関係者に衝撃を与えている。農林水産省は、慎重姿勢を貫いてきた「最後の手」を打つ検討を始めた。
「ステージは確実に変わった」。土曜日の14日夜に開かれた農水省の対策本部で、就任したばかりの江藤拓農水相は危機感をにじませた。
13~14日に感染がわかったのは、埼玉県秩父市の養豚場と長野県塩尻市の県畜産試験場。17日朝には、秩父市の養豚場から約5キロ離れた別の養豚場で感染が確認された。飼育豚の感染はこれまで岐阜、愛知、三重、福井の4県だったが、計6県になった。
元々、農水省がウイルスの媒介役とにらんでいたのは野生イノシシだ。岐阜での発生から1年になるのに合わせ、中部地方を南北に貫く「防衛ライン」を構想。捕獲を増やしたり、ワクチン入りのえさをまいたりして封じ込めを図る対策を打ち出したが、新たな感染はその外側で起きた。
秩父市の養豚場は野生イノシシの感染が確認されている長野県西部から約100キロ離れている。この間ではイノシシの感染は確認されておらず、今回、イノシシが介在したかどうかははっきりしない。同省の疫学調査チームは、人や車両、ほかの野生動物が媒介した可能性も含め、慎重に感染経路を調べている。
埼玉県の隣県は豚の一大産地だ。群馬、千葉の両県は60万頭台で本州1、2位を誇り、栃木、茨城を含む4県の飼養頭数は本州全体の4割を超える。関東でも感染が広がり殺処分が増えれば、豚の供給にも影響が出ることが懸念される。
群馬県にあるJA前橋市の大塚隆夫組合長は「県内で発生すれば、全国的なダメージにつながる」と危機感を募らせる。
感染の拡大を防ぐために、養豚農家らが期待を寄せるのは豚へのワクチン接種だ。同JA養豚部会の上野実会長は「豚コレラの発生は農家にとって死活問題。ぜひ使わせてほしい」と話す。
ワクチンの接種について、農水省は慎重な姿勢を貫いてきた。接種すれば国際機関から豚コレラの「非清浄国」とみなされ、輸出が難しくなるからだ。
だが、ここに来て、農水省はワクチンに関する議論を加速させ始めた。現在備蓄しているワクチンは接種して抗体ができた豚と、感染豚を区別できないことも問題だったが、両者を区別できる外国製の「マーカーワクチン」を使うことの検討を開始。ただ、有効性や安全性を確認する手続きには時間がかかる。
ワクチンを打つのかどうか。打つ場合、どのワクチンを使い、地域を限定するのかどうか。「あまり時間はかけられないが、科学的根拠に加え、国民にも理解されるような形で取り組む必要がある」。担当課の幹部はこう強調する。江藤農水相は17日、「いろんな方々の意見を聞いて私の責任で決断したい」と語った。(兼田徳幸、金井信義)
【図】
豚コレラの発生状況
《朝日新聞社asahi.com 2019年09月18日より抜粋》