20100321

(ビジネス)脱サラ農業で年商110億円! 鈴木誠著 農業の課題をビジネス視点で


2010年03月21日

この八方ふさがりの景気の中、「脱サラ農業で年商110億円!」と謳(うた)われたら、思わず「おおっ」となる人は多いのではないか。

著者は銀行勤務を経て2003年に農畜産物の生産、販売などを行う株式会社「ナチュラルアート」を東京で起業。地方の生産者と都市の消費者との間に、新しい流通経路を確保する、などの動きで注目を集めている。

金融機関出身という異色の経営者は、日本の農業における諸々(もろもろ)の課題を、ビジネスの視点で言葉にできるところが強みだ。たとえば課題のひとつ、生産者の意識改革について、「日本では、農業を語る上で、経済合理性の問題を軽視して、政治や精神論の世界に逃げ込む傾向が強くなっていました」と指摘し、その解決策としてビジネスマン時代に蓄えた「複雑な企業経営ノウハウ」を示す。「ポートフォリオ戦略」「農業バリューチェーン」といったビジネス用語を用いながら解く「儲(もう)かる農業」への脱皮は、なるほど、説得力がある。

では、そんな「企業経営ノウハウ」を現場である「ナチュラルアート」ではどのように反映し、年商110億円を達成しているのだろうか。それこそが読者の興味なわけだが、残念ながら本書には、その具体的な言及が乏しい。「日本の農業を元気にする!」「新しい産業としての農業を作る!」と檄(げき)を飛ばされたはいいものの、何だかキツネにつままれた読後感が残る。(角川書店・1575円)

(清野由美 ジャーナリスト)

 
《朝日新聞社asahi.com 2010年03月21日より引用》

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