20100204

卵の「コク」の正体は 比内地鶏は「濃い」「味がしっかり」の声


2010年02月04日

「コクがあって、おいしい」「濃厚でコクがある」。卵の味を表すとき、よく使われる表現だ。日本三大地鶏のひとつ、秋田県の比内地鶏の卵も濃厚なコクが売り。ところが、このコクを巡って、同県でちょっとした騒動が起きた。東京のアンテナショップで出していた親子丼の味が問題となり、昨秋、県議会での議論にまで発展した。卵のコクって、何なのだろうか。調べてみた。(斉藤寛子) ◆食べ比べで違い明らか

まずは卵のコクを探るため、比内地鶏の卵とスーパーで売られている一般的な鶏卵で作った親子丼を食べ比べてもらうことにした。いわゆる官能テストだ。東京ガス「食」情報センター(東京都中央区)の協力で、東京周辺に住む10~50代の男女11人に、比内地鶏の卵の配分を変えた4種類の親子丼を食べてもらった。

作ったのは、比内地鶏卵が100%のもの、一般的な卵と混ぜて70%、50%、30%としたもの。ほかの具材や調理手順、加熱時間は同じにした。  まず、100%のものを試食。比内地鶏の親子丼は全員が初めて。「卵の味がしっかりする」。初めの一口で、そんな感想が出た。女性(37)は「コクがありすぎるぐらいある」。

次は70%。100%と比べてもらうと、「黄身の味が薄まった」の声があがった。「ちょうどいい」と「まだ濃い感じがする」の声も交ざる。50%になると、「しょうゆの味が強くなった」「卵より比内地鶏の肉の味を感じる」。男性(54)は「最近、あっさり好みになってきたからこのぐらいが好き」。

地鶏卵の割合が30%になると、「いつもの親子丼」「違いがはっきりわかる」と落ち着いた声。女性(27)は「一人前食べるなら、これぐらいがちょうどいいかな」とした。

100%を基準に、3種類について「あっさり」「ややあっさり」「100%と同じ」「やや濃厚」「濃厚」と5段階で評価してもらった結果はグラフのとおり。味覚的には、卵の割合で違いが明確に出た。

一方で、「卵の風味がよくて、私好みだった」(女性・19)、「濃さがおいしかった。あつあつご飯で生卵を食べてみたい」(男性・42)、と比内地鶏卵に好意的な感想もあった。

卵の「コク」は何を表したものか。女性(27)は「卵が口にまとわりつく感じ」。ほかには「のどにからみつく感じや粘り気」「黄身のドロッとした柔らかさ」などの声があった。

東京ガス「食」情報センター主幹の小西雅子さんは「卵は値段の差ほど、味や栄養に違いはないと聞いている」と前置きし、「比内地鶏の卵の味には確かな違いがあって驚いた。こんなに濃い味の卵は初めて食べた」と話した。実験の結果については「コクがあれば必ずおいしいというわけではなかった。料理によって向き不向きもあるかもしれない」と評価した。

◆「苦み」が味の「深み」に?

食べ比べでコクの評価が高かった比内地鶏の卵。コクとは、深みのある濃い味わい、濃厚なうまみという意味だ。しかし、科学的に分析すると、コクの正体ははっきりしないようだ。

○科学的データなし

秋田県は県議会の議論を受け、県総合食品研究所で卵の成分分析をした。比内地鶏の卵と一般的な鶏卵を各10個ずつ、アミノ酸組成、卵白・卵黄の比率などを調べた。結果に有意差はなく、比内地鶏の卵が一般的な鶏卵より濃厚だとは確認できなかった。同研究所の研究員は「殻や黄身の色は品種や餌によって異なるが、味や栄養価にそんなに違いはない」と話す。

キユーピー(東京都渋谷区)は、一般的な鶏卵数種類で、官能検査とアミノ酸の種類や量、脂質、脂肪酸の組成などを調べる理化学的検査をした。官能検査でコクがあるとされた卵と、そうでなかった卵に明確な違いを示すデータは出なかったという。  広報室チームリーダーの坂口裕之さんは「色々な成分の細かなバランスの違いが卵の味の違いにつながるのだとは考えられる。現状では、それを証明できるほど密接なつながりを示すデータはない」。

「コクとうまみ」が売りの「森のたまご」を販売しているイセ食品(本部・東京都)。飼料に魚粉などを加えた鶏卵は、DHA(ドコサヘキサエン酸)が一般的な鶏卵の約2倍、ビタミンEが約9倍含まれているという。品質保証室では「コクがDHAだと科学的に証明されているわけではない。しかし、私たちの行った官能試験では、DHAなどを強化することがコクを感じることにつながっている」と話す。

○「舌の感覚」で測定

そんな中、メーカーの商品開発を支援する民間会社「味香り戦略研究所」(横浜市)は「コクの要因は苦みでは」と見ている。科学的には証明できなかったコクを、人の舌の感覚に近い分子膜を使った測定器「味覚センサー」で測定した。すると、官能評価と相関する違いが発見できたという。  味覚センサーは、おいしさの構成要素である五味(うまみ、甘み、塩味、酸味、苦み)がどのように含まれているのかを分析する。その結果、官能評価と結びついたのは微量の「苦み」だった。  同研究所では、「コクは、複雑な複数の味が混ざり合って感じるもの。卵の場合は苦みが加わることで、味の深みとしてコクを感じるのではないか」と話している。

●キーワード  <比内地鶏> 国の天然記念物である比内鶏の雄とアメリカ原産のロードアイランドレッド種の雌の交配種。秋田県大館市比内町の生産者らと県畜産試験場が品種改良を繰り返し、1973年に生産が始まった。出荷数は年間78万羽(2008年)。卵は約1千羽あたり500個ほど出荷されると見積もられている。

<比内地鶏親子丼の騒動> 秋田県のアンテナショップのレストラン(東京都港区)で比内地鶏親子丼を食べた客に食中毒が発生。経緯を調べる中で、地鶏卵に一般的な鶏卵が30%混ぜられていたことが判明。委託業者は「客から『味がくどい』という声が寄せられたため」と説明。県議会では県議から「比内地鶏の卵は濃厚なのが売り。ほかの卵と混ぜるなんて許せない」と発言があった。この業者は委託契約が解除された。

 

《朝日新聞社asahi.com 2010年02月04日より引用》

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