20091225

2009年10大科学ニュース 朝日新聞の記者による投票


2009年12月25日

日本の宇宙開発の新時代を告げる成果が相次いだ一方で、科学技術予算のゆくえをめぐって激しいやりとりも――。朝日新聞の科学報道に携わってきた記者による投票で、今年の10大科学ニュースを選んだ。第1位は「新型インフルエンザの流行」だった。

 

●第1位 新型インフルが大流行 1500万人感染、死者100人超

豚インフルエンザが流行し、メキシコで死者が出た可能性がある――世界保健機関(WHO)が4月24日に発表。21世紀初の「新型インフルエンザ」が発生した。

感染が広がる中、日本でも5月に患者を確認。WHOは6月、世界的大流行(パンデミック)を意味する警戒度「フェーズ6」を宣言。1968~69年の「香港かぜ」以来、約40年ぶりの大流行となり、世界でも日本でも社会に大きな影響を与えた。

国立感染症研究所の推定では16日時点で、日本の感染者は約1546万人(暫定値)。国内の死者は感染疑い例も含めて100人を超した。WHOは世界での死者が少なくとも1万人を超したとみる。

インフルエンザは人と動物に共通の感染症で根絶は難しく、新型ウイルス出現も研究者に予想されていた。人に感染した場合の致死率が高い鳥インフル(H5N1型)の流行が恐れられ注目されていたが、流行したのは豚インフル(H1N1型)で病原性は低かった。季節性に比べ、重い肺炎を起こしやすいことなども徐々にわかってきた。

南半球や北米などでは流行のピークを越えつつあるが、病原性や治療薬への耐性が変わらないか、世界の研究者が注視している。(小堀龍之)

 

●第2位 若田さん、宇宙長期滞在 無人宇宙船打ち上げも成功

若田光一さん(46)らを乗せたスペースシャトル・ディスカバリーが3月、米航空宇宙局(NASA)のケネディ宇宙センターから国際宇宙ステーション(ISS)に飛び立った。

若田さんは、日本人初の宇宙長期滞在に挑み、日米欧の実験棟などでの様々な科学実験や芸術実験を実施。微小重力での骨の衰えを防ぐ効果を調べるため、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の薬を服用するなど体を張った医学実験にも挑戦した。7月には、ロボットアームを使って日本初の有人宇宙施設「きぼう」を完成させ、スペースシャトル・エンデバーで地球に帰還。宇宙滞在は「137日と15時間5分」に及んだ。

9月には、ISSに日用品や実験装置を運ぶために日本が独力で開発した無人宇宙船HTVが、種子島から打ち上げられた。打ち上げに使われたのが日本最大のH2Bロケット。H2Aロケットの1段目のエンジンを二つにして打ち上げ能力が増強された。(田中康晴)

 

●第3位 事業仕分けで議論白熱 ノーベル賞学者ら反論

予算のムダを見つける行政刷新会議の「事業仕分け」で、科学技術の事業に「予算縮減」「計上見送り」などの厳しい評価が相次いだ。

対象になった事業は文部科学省だけで約40(計約4千億円)。次世代スーパーコンピューターでは「世界一」にこだわる説明に、仕分け人が「2位ではダメなのか」と発言、波紋を呼んだ。ノーベル賞受賞者らが記者会見を開くなど、科学界から異論・反論が続出した。

仕分け人は科学の重要性を否定していないが、鳩山政権の科学技術戦略が見えてこないこともあり、政府の総合科学技術会議からも「減額すれば科学技術に対する国家としての姿勢が問われる」との提言が出された。

仕分けでは研究費の重複や民主党が「天下りの受け皿」と呼ぶ独立行政法人への交付金にもメスが入った。科学界からは「予算要求だけでは社会の理解は得られない」など反省も出ている。(行方史郎)

 

●第4位 最古期の人類像浮かぶ エチオピアのラミダス猿人

エチオピアで見つかった約440万年前のラミダス猿人の全身骨格化石「アルディ」をもとに、最古期の人類像が描き出された。森で暮らし、二足歩行も木登りもしていた。草原進出で二足歩行が始まったとの従来説を覆した。

約15年前まで我々の祖先の古人類は約350万年前のアファール猿人までしか知られていなかったが、ラミダス猿人発見後、400万~700万年前の化石が次々に見つかり、人類の起源の解明に迫った。研究チームは最古期の人類を代表する存在とみている。(米山正寛)

 

●第5位 46年ぶり皆既日食 天候には恵まれず

日本の陸地では46年ぶりの皆既日食が7月22日にあった。皆既状態が6分半の今世紀最長の日食で、鹿児島県のトカラ列島や中国・上海などに数万人の愛好家らが詰めかけた。しかし、小笠原諸島の硫黄島周辺を除くほとんどの地域は天候に恵まれなかった。

鹿児島県の奄美大島などでは午前11時前に皆既になり、子どもたちから拍手や歓声が上がった。トカラ列島の悪石島は大雨に見舞われ、30万~40万円の高額ツアー参加者からはため息が漏れた。2010年は、1月15日に甲信越以西で部分日食、7月12日に南太平洋で皆既日食が観測できる。(東山正宜)

 

●第6位 臓器移植法が改正

臓器移植法が7月に改正された。来年7月の施行。「脳死は人の死」として、本人の意思が不明でも、家族の承諾で0歳から臓器提供できるようになる。現行法は臓器移植の場合に限り脳死を人の死と認め、提供は書面による本人の意思表示などが必要だった。

 

●第7位 温室ガス25%減表明

鳩山由紀夫首相が9月の国連気候変動サミットで、2020年までに日本の温室効果ガス排出を1990年比25%削減するという中期目標を発表した。前政権から一気に上積みしたが、国民負担の程度や、「25%削減」達成の道筋は示せていない。

 

●第8位 理系出身の首相誕生

鳩山首相は、本格的な「理系首相」としても注目を集めた。数学を応用して最適な答えを得る「オペレーションズ・リサーチ」を専攻。工学博士で、大学教員も務めた。菅直人副総理、平野博文官房長官、企業研究者経験がある川端達夫文部科学相も理系出身だ。

 

●第9位 COP15開催

京都議定書に続く2013年以降の温暖化対策を話し合う国連の気候変動枠組み条約の第15回締約国会議(COP15)が12月に開催。先進国と途上国の対立は激しく、「コペンハーゲン合意」が承認されたが、法的拘束力がなく、多くの課題が先送りされた。

 

●第10位 足利事件の再審決定

女児が殺害された足利事件で、東京高裁は6月、無期懲役が確定していた菅家利和さんの再審開始を決定。科学警察研究所のDNA型鑑定が有罪立証の柱だったが、再鑑定で「菅家さんの型とは一致しない」とされた。科学への妄信を戒め、分析結果の利用への慎重な判断を示した。

 

●その他のニュース

このほかにも、科学に関する様々なニュースがあった。

iPS(人工多能性幹)細胞研究は、米国などのチームが遺伝子を使わず作製に成功した。

エネルギー分野では、プルトニウムを再使用するプルサーマルの運転を九州電力が開始。生態系に関するニュースでは、エチゼンクラゲが、史上最大規模の大発生となった。

宇宙関連では、米航空宇宙局(NASA)が「月にはまとまった量の水が存在する」との観測結果を発表。年末になって、「暗黒物質」らしい粒子を地上で観測、とのニュースも米国から届いた。(山本智之)

《朝日新聞2009年12月25日より引用》

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