国産化急ぐインフルエンザ薬 10年後半にも登場 大量・安定供給の期待
2009年05月22日
国内の製薬会社がインフルエンザ治療薬の開発を急いでいる。第一三共や塩野義製薬の開発品は新型の豚インフルエンザにも効きそうで、早ければ10年度中にも実用化される。新型インフルエンザの治療薬は現在、すべて輸入品。「国産」によって、安定した供給が期待されている。
(寺西和男、清井聡)=1面参照
第一三共が開発している新薬「CS―8958」は口の中に噴射して服用する。今、使われている治療薬の「タミフル」や「リレンザ」と同じく、ヒトの細胞に入り込んで増えたウイルスを細胞から出られないようにする。広川和憲研究開発本部長は「豚インフルエンザにも効果があると思う」と話す。
タミフルやリレンザは1日2回、5日間服用する必要があるが、第一三共の新薬は効果が長続きするため、1回噴射すれば効くという。実際の患者で効き目や副作用を確かめる臨床試験をすでに終え、年内にも新薬の承認を申請する予定だ。
塩野義製薬は点滴で使う「ペラミビル」を開発中。新型インフルエンザにも効果があるとみている。これも効果が長続きするため、15分間の点滴1回で治療できる見込みだ。07年に米国のバイオベンチャーから日本、韓国、台湾での開発・販売の権利を買い取った。臨床試験は最終段階に入っており、年内の申請を目指している。
富士フイルムホールディングス傘下の中堅製薬会社の富山化学工業も「T―705」の臨床試験をしている。タミフルなどと異なり、ウイルスの増殖そのものを抑える仕組みで、動物実験ではタミフルより治療効果が高かったという。新型インフルエンザにも効くかどうかを調べている。承認の申請は第一三共や塩野義より1年程度遅れそうだ。
国の審査が順調に進めば、第一三共と塩野義の新薬は10年後半にも治療に使える。タミフルなどのインフルエンザ治療薬は輸入に頼っており、世界的に感染が拡大した場合などは確保できなくなる不安がつきまとう。国内3社の新薬は、将来の供給不安の解消にはつながりそうだ。
◇耐性型にも効く仕組み解明 筑波大・横浜市大チーム
筑波大と横浜市立大のグループは、インフルエンザウイルスが増えるのに必要なたんぱく質のしくみを解明し、このたんぱく質を作れなくする物質の開発法を共同で特許出願した。新型の豚インフルや、今後想定される高病原性の鳥インフルなど、さまざまなタイプに効果があり、耐性株も現れにくい新薬開発につながる可能性がある。21日付の欧州分子生物学機関誌電子版に掲載された。
タミフルはウイルスが持つある種のたんぱく質の働きを妨げることで増殖を抑える。だが、ウイルスが変異を繰り返すことで、たんぱく質の構造も変わる。耐性を身につけたウイルスが、実験で報告されている。
筑波大の永田恭介教授(感染生物学)たちは、ウイルスの増殖にかかわる複数のたんぱく質のうち、「RNAポリメラーゼ」に着目した。このたんぱく質は三つのパーツでできており、まずその結合部の構造を解明した。結合部に「ふた」をする形状の化合物をコンピューターに登録された450万種類の化合物から100種類選び、うち2種類がウイルスの増殖を強力に抑えることがわかった。
ウイルスに共通するたんぱく質が標的のため、将来どのタイプの高病原性インフルが登場しても効果が期待できるという。RNAポリメラーゼの働きを阻害する治療薬は、富山化学工業の「T―705」があり、臨床試験に入っている。
(嘉幡久敬)
◆キーワード
<インフルエンザ治療薬> 新型インフルエンザの治療薬として国が備蓄するのは、スイス・ロシュのタミフルと、英グラクソ・スミスクラインのリレンザ。ともに欧州で生産し、日本に輸入している。国と都道府県などで計約3800万人分の備蓄があるが、国は11年度末までにさらに約2300万人分増やす目標を掲げている。
■主なインフルエンザ治療薬
製薬会社名 薬の名称 形状や開発状況など
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ロシュ(スイス) タミフル カプセル剤と顆粒剤。
政府などが3400万人分を備蓄
グラクソ・スミスクライン(英) リレンザ 粉末の吸入薬
政府などが約470万人分を備蓄
第一三共 CS―8958 口内への噴射薬。年内にも申請予定
塩野義製薬 ペラミビル 注射薬。年内にも申請予定
富山化学工業 T―705 飲み薬。10年中に申請予定
《朝日新聞2009年05月22日より引用》