「大流行に備えを」WHO、警戒水準「5」に引き上げ
2009年04月30日11時16分
- ジュネーブで29日夜、緊急記者会見する世界保健機関(WHO)のマーガレット・チャン事務局長(右)とケイジ・フクダ事務局長補=AP
- 豚インフルエンザ感染者が確認された国
- WHOの警戒レベル(フェーズ)の定義
【ジュネーブ=南島信也】新型の豚インフルエンザの感染拡大を受け、世界保健機関(WHO)のマーガレット・チャン事務局長は29日深夜(日本時間30日早朝)に緊急記者会見を開き、警戒レベルをこれまでの「フェーズ4」から「フェーズ5」に引き上げたと発表した。WHOが「フェーズ5」を出すのは初めて。世界的な大流行(パンデミック)を示す「フェーズ6」の一段階手前で、WHOは国際社会に向けてより強い警告を発する必要があると判断した。 経済、社会など各分野に影響が広がるのは必至で、各国政府は一層の対策を迫られることになる。
「フェーズ5」は人から人への感染が、一つのWHO管轄地域内の2カ国以上で発生している状態。WHOは、警戒レベルを27日に「3」から「4」に引き上げたばかりだった。
WHOは当初、30日午前にも緊急委員会を開いて対応を検討する方向だったが、29日に開かれた各国の専門家らによる電話会議で、各国に早急な対策強化を求めるには「フェーズ5」に引き上げるべきだとの意見で一致。チャン氏がこうした意見を考慮し、正式な緊急委員会を開かずに前倒しで引き上げを決断した。
チャン氏は会見で、引き上げの理由を「地域レベルで持続的な人から人への感染が確認されたため」と説明。背景には、感染の中心となったメキシコ以外にも、米国で初の死者が出たほか、欧州やニュージーランド、中東、南米にまで感染が広がっている状況がある。
チャン氏は「パンデミックが迫っている」と強調。会見に同席したケイジ・フクダ事務局長補も「フェーズ6も十分にあり得る」と述べ、最悪の段階まで警戒レベルを上げる可能性を示した。
チャン氏は「パンデミックになれば人類全体の脅威になる」としたうえで「警戒レベルの引き上げは各国政府や保健当局、製薬会社が行動するべきだというサインだ」と述べ、早急なワクチンの増産や研究を要請。「すべての国は大流行に備えた計画を速やかに始動させ、高度な警戒態勢を維持すべきだ」と訴えた。
一方で、人や物の移動の制限、国境閉鎖などは「勧めない」とした。
また、チャン氏は「過去の経験からインフルエンザは豊かな国では軽い病気だが、途上国では致死率の高い深刻な病気になる」と語り、途上国への感染拡大に危機感を示すとともに、国際的な協力の重要性を訴えた。
《朝日新聞社asahi.com 2009年04月30日より引用》