20190504

豚コレラ殺処分、心に負担 職員「鳴き声、耳から離れない」 既に9万頭、収束まだ


2019年05月04日

家畜伝染病「豚(とん)コレラ」が国内で26年ぶりに岐阜県で確認されてから、間もなく8カ月。感染拡大を防ぐため、岐阜、愛知両県の計46施設で9万頭近くの豚が殺処分されたが、予断を許さない状況が続く。作業にあたる両県の職員には、心身に重い疲労が募っている。

愛知県内では2月以降、計30農場に豚コレラが広がり、4万6千頭余りが殺処分された。県内の飼養頭数33万2700頭(昨年2月現在)の1割超にあたる。  県によると、4月15日現在で延べ1万9700人余りが殺処分などの作業にあたった。約半数の1万人超が県職員で、ほかは自衛隊員や地元自治体職員ら。24時間態勢で作業を進めた。

県職員の男性(50)は2月、田原市の養豚団地で殺処分に携わった。トラックの荷台に100頭以上の豚を載せてブルーシートをかけ、中に二酸化炭素を送り込んで窒息死させる。シートがずれないよう、十数人で荷台の周りを押さえた。「ギャーギャー」と鳴き声が聞こえ、荷台をドンドンと蹴られたが、次第に弱まり、音がしなくなった。その後、豚を引っ張り出して袋詰めにした。「可哀想と思っていたら作業できない。とにかく必死だった」

別の男性職員(48)は、豚舎の子豚をトラックに追い込んだ。板を使って誘導したが、異変を感じたのか、逆走したり、職員に向かってきたりした。子豚といっても抱えられないほどの大きさで、ぶつかられると体がよろけた。中には、太ももを鼻でつついてくる人懐こい子豚もいた。「次にこいつを追い込まないといけない」と考えると気が沈んだ。それでも「使命と割り切って作業した」という。

県は、作業にあたる職員らのケアのため、保健師による健康相談を希望者に実施する。これまでに「豚の鳴き声が耳から離れない」「夜通しの作業で生活のリズムが崩れた」など、6件の相談が寄せられたという。(堀川勝元)
■連休中も待機、県はケア注力

昨年9月から豚コレラが相次ぐ岐阜県では、これまでに4万1千頭余りが殺処分され、自衛隊員らを含め延べ1万5010人が防疫作業に従事した。県職員厚生課には「消毒用の石灰が目に入った」「頭痛がする」など、58件のけがや体調不良などの報告があった。

連休中に新たな感染が確認される場合に備え、県は派遣待機者をリスト化。県は殺処分を24時間以内、死体の埋却や施設の消毒を72時間以内に終えることを目安としているが、職員からは「夜を徹して急ぐ必要があるのか」との疑問も。

県も職員のケアに力を入れる。作業にあたる職員を選ぶ際、事前に上司が健康状態などを確認し、現地で血圧測定などの健康診断を実施。保健師らの問診などを経て、最終的に作業させるかを判断するという。(板倉吉延)
◆キーワード

<豚コレラ> ウイルスによる豚やイノシシ特有の伝染病。感染力が強く、致死率が高い。人には感染しない。内閣府の食品安全委員会は、仮に感染した豚やイノシシの肉などを食べても人体への影響はないとしている。

農林水産省の畜産統計調査によると、昨年2月現在の全国の豚の飼養頭数は約919万頭で、九州や関東、東北が多い。岐阜県と愛知県の豚コレラが豚肉市場全体に与える影響は今のところ限定的とみられる。
【写真説明】

防護服姿で殺処分にあたる岐阜県職員ら=2018年12月、岐阜県関市、本社ヘリから

《朝日新聞社asahi.com 2019年05月04日より抜粋》

 

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