ウズラ卵一大産地に悲鳴 鳥インフルで出荷制限、風評…
2009年03月10日
愛知県豊橋市を中心とした全国一のウズラ卵産地が、鳥インフルエンザ問題で苦境に立たされている。ウズラの2割が殺処分されたうえ、ヒナの供給減も懸念されるためだ。9日には3例目の感染が判明し、出荷制限や風評被害も農家経営を圧迫する。問題発生前まで約300万羽が飼われていた豊橋が活況を取り戻すには時間がかかりそうだ。
9日午後、豊橋養鶉(ようじゅん)農業協同組合。卵をパック詰めする機械3台のうち、稼働しているのは1台だけだ。「大口客が少し戻ってきたが、信頼回復が課題」と担当者は話す。ウイルスが検出された1例目と2例目の農家は、規模や実績などで代表的な存在だった。感染に伴う殺処分で、地域で飼っているウズラの2割に当たる50万羽強がいなくなった。3例目の農家も、ウイルスが高病原性と確認されれば約11万羽は処分される見込み。需要が戻っても、生産規模の減少をどこまで回復できるかは分からない。
ヒナの供給も課題だ。中小農家は通常、大規模農家や農協などで孵化(ふか)されたヒナを引き取り、約1年間飼養・採卵する。地域で年間に必要なヒナは推計約300万羽。2例目の農家は、年間約100万羽を周辺農家に供給してきた。このため、3分の1のヒナの供給に支障が出かねない格好だ。
農協や民間に数カ所ある孵化場はヒナを増産する方針だが、具体的なメドはたっていない。ある生産者は「組合が増産してくれても、全体に行き渡るだろうか」と心配する。各農家から組合に注文が相次げば、供給のペースが遅れる心配がある。
ウズラは卵から孵化まで17日、ヒナが卵を産む成鳥に育つまで43日前後かかる。産卵開始まで約2カ月かかる計算だ。卵が産まれてから採卵まで約5カ月かかるニワトリより回転が速いが、殺処分された分を元に戻すには1年はかかると見込まれる。
出荷制限の影響も続く。移動制限区域内のある農家は「感染していないか、と得意先からの問い合わせが相次ぐ」と話す。公的な補償制度はあるが、制限でパック詰めした卵やフンはたまるばかりだ。さらに風評被害には公的な補償はない。
3例目の確認を知らされた2例目の農家は10日朝、「ウズラ産業が消えてしまうのではないか」と嘆いた。
県によると、豊橋でのウズラ飼養は、大正時代ごろに始まり、第2次世界大戦などで一時中断。戦後復興とともに再開された。70年代前半には約60戸で400万羽前後が飼われていた。当時も全国の7割前後を占めていたという。
その後、後継者不足などで中小農家が廃業する一方、経営農家は規模を拡大。1戸当たりの飼養数は増えた。昨年2月現在で19戸が約300万羽を飼養している。
最近は飼料の高騰などで経営は厳しい。この1年でも、3戸が転廃業したとみられる。家族中心でやっているある農家は「元々苦しいところに、今回の問題。子に継いでほしいとは言えない」という。
とはいえ、67年ごろにも、鳥の病気であるニューカッスル病の影響で生産が落ち込んだ経験を持つ業界だ。卵から親鳥になる期間が短いため、「やり直しがきく」との意識が強いとされるだけに、今回も復活をめざしている。(山本晃一、岡田匠)
《朝日新聞社asahi.com 2009年03月10日より引用》