iPS細胞ってなに?
2009年02月15日
東京都町田市・富樫油香(とがしゆか)さん(高1)からの質問(朝日新聞社発行 2月15日付be) ○体(からだ)のどんな部分(ぶぶん)にもなる種(たね)よ◇ののちゃん ニュースでよく聞(き)く「iPS(アイピーエス)細胞(さいぼう)」が、いろんな病気(びょうき)を治(なお)せるって本当(ほんとう)?
◆藤原(ふじわら)先生 iPS細胞は体(からだ)のあらゆる種類(しゅるい)の細胞になることができるの。できた細胞を治療(ちりょう)に使(つか)える日(ひ)はまだ先(さき)になるけれど、病気やケガで傷(きず)ついた細胞のかわりとして働(はたら)いてくれることが期待(きたい)されているのよ。
◇ののちゃん ふだんは体のどこにある細胞なの?
◆先生 人(ひと)の皮膚(ひふ)などの細胞をもとに人工的(じんこうてき)につくり出(だ)したので、私(わたし)たちの体にはない細胞よ。「人工多能性幹細胞(じんこうたのうせいかんさいぼう)」ってよばれてるの。
◇ののちゃん どんな細胞にもなれるって、そんなにすごいことなの?
◆先生 人の細胞は数百(すうひゃく)種類、脳(のう)も含(ふく)めると3千(ぜん)種類あるという人もいるほど。その一(ひと)つ一つが心臓(しんぞう)や骨(ほね)など、私たちの体を形作(かたちづく)る基本(きほん)パーツになっているの。車(くるま)をつくるのに、たくさんの部品(ぶひん)を組(く)み立(た)てていくのと同(おな)じね。でも、こんなにたくさんの細胞も、実(じつ)はたった1種類の細胞から生(う)まれるのよ。
◇ののちゃん へえ~。
◆先生 受精卵(じゅせいらん)っていうヒトのもとになるものがあるわ。正確(せいかく)にいうと、受精卵ができてから1週間(しゅうかん)ぐらいたつと、すべての体の細胞に成長(せいちょう)できる「種細胞(たねさいぼう)」ができるの。ここから、個性豊(こせいゆた)かな細胞が増(ふ)え続(つづ)けて、体のさまざまな部分(ぶぶん)をつくっていくのよ。役割(やくわり)をもった細胞になることを「細胞が分化(ぶんか)する」というのだけど、いったん分化した細胞はもう「種細胞」に戻(もど)れないし、ほかのどんな細胞にもなれないわ。
◇ののちゃん 細胞はやり直(なお)しが利(き)かないんだね。
◆先生 そのとおり。哺乳類(ほにゅうるい)の細胞の分化は、逆戻(ぎゃくもど)りできない「一方通行(いっぽうつうこう)」って考(かんが)えられてきたわ。ところが……
◇ののちゃん まさか、逆戻りしちゃうの。
◆先生 大正解(だいせいかい)。バイオテクノロジーの技術(ぎじゅつ)を使って研究室(けんきゅうしつ)で、何と、大人(おとな)の皮膚の細胞を「種細胞」まで戻すことができてしまったの。こうしてできた種細胞がiPS細胞よ。京都大学(きょうとだいがく)の山中伸弥先生(やまなかしんやせんせい)たちが初(はじ)めてつくったの。
◇ののちゃん どうしてそんなことができるの。
◆先生 まず皮膚の細胞に四(よっ)つの遺伝子(いでんし)を入(い)れてやると、「種細胞に戻れ」という命令(めいれい)のスイッチが入るの。ガラスの容器(ようき)で1カ月ぐらい育(そだ)てるとiPS細胞のできあがり。完成(かんせい)したiPS細胞は、皮膚だけじゃなくあらゆる細胞に育(そだ)てることができるの。
◇ののちゃん 皮膚の細胞を骨(ほね)の細胞にしたり?
◆先生 そういうこともできるわね。遠(とお)い将来(しょうらい)は、パーツをさらにくみ上(あ)げて、ガラスの容器の中(なか)で肝臓(かんぞう)や腎臓(じんぞう)などにつくりあげる研究もめざしているのよ。ほかに、受精卵をもとにしてつくる「ES(イーエス)細胞」も、あらゆる細胞になる力(ちから)をもっているの。でも、ES細胞はヒトのもとの受精卵を使(つか)うから、いのちを大切(たいせつ)に考える視点(してん)から、慎重(しんちょう)な扱(あつか)いが定(さだ)められているわ。
(取材協力=理化学研究所発生・再生科学総合研究センターグループディレクター・笹井芳樹さん、構成=小林舞子)
◆調べてみよう!
(1)人(ひと)の細胞(さいぼう)の種類(しゅるい)を本(ほん)や図鑑(ずかん)でいろいろ調(しら)べよう。どんな形(かたち)や働(はたら)きをしているかな。
(2)細胞が一(ひと)つしかない生(い)き物(もの)もいるよ。どんな仲間(なかま)がいるんだろう。どうやって子孫(しそん)をふやしていくのかな。
《朝日新聞社asahi.com 2009年02月15日より引用》