20190223

えさ型ワクチン8万個 野生イノシシに豚コレラ対策 【名古屋】


2019年02月23日

 

家畜伝染病「豚(とん)コレラ」の一連の発生で、今月6日に岐阜県外の施設として初めて感染が確認された愛知県豊田市の養豚場について、早ければ昨年11月にウイルスが侵入していた可能性があることがわかった。農林水産省の専門家チームが22日、調査結果を発表した。野生イノシシ由来のウイルスが、車や人によって運び込まれたとみている。農水省は防止策として、国内で初めて野生イノシシにえさ型ワクチンを使うことを決めた。

農水省の拡大豚コレラ疫学調査チームが、現地での聞き取りや記録などから感染経路を検討した。豊田市の養豚場では、豚を運ぶ車などを道路で消毒していたが、長靴や手袋の着替え場所が豚舎への入り口にあるなど、外部のウイルスを持ち込みうる状況だったという。豚コレラの症状とみられる流産の時期や、抗体を持つ豚の割合などから、昨年11月中旬~12月中旬を感染時期と推定した。この養豚場からは感染した子豚が5府県に出荷されていた。

この養豚場のほかにも、野生イノシシが感染源と疑われるケースが相次いでおり、農水省は防止策として、国内で初めて野生イノシシにえさ型ワクチンを使うことを決めた。岐阜、愛知両県の一部地域で、3~5月に計8万個を土中に埋めて食べさせる。養豚場の豚へのワクチン接種の場合とは異なり、国際獣疫事務局(OIE)の「清浄国」認定には影響しない。

養豚家からは飼養豚へのワクチン接種の要望も出ているが、吉川貴盛農水相は会見で「極めて慎重な対応が必要」と述べるにとどめた。(荻原千明)

■えさ型、期待と疑問

農水省が野生イノシシにえさ型ワクチンを使うと発表したことに対し、愛知、岐阜両県の関係者や専門家には、期待の声と効果を疑問視する声の両方がある。

岐阜県内では22日現在、180頭の野生イノシシに豚コレラ感染が確認されている。古田肇知事は「大いに期待する。我が国初の試みであり、スムーズな実施に向けて協力していきたい」とコメントした。愛知県の大村秀章知事も「(具体的にどう進めるか)一緒になって組み立てていきたい」と、国や岐阜県と歩調を合わせる考えを示した。

「イノシシは警戒心が強い。薬品が入ったえさを食べるだろうか」。岐阜県山県市でイノシシ肉を販売する臼井勝義さん(65)はいぶかる。猟友会と捕獲に協力しているが、「イノシシは、わなを仕掛けても人間のにおいに気付いて掘り起こしてしまうほど。絶対食わないと思う」。同県高山市の猟師、今井猛さん(68)も「イノシシはなわばりを持っているので、多くのイノシシに投与するには相当な量と手間がかかるはずだ」と疑問を持つ。

愛知県田原市の瓜生陽一さん(53)は、同じ養豚団地で豚コレラが発生した影響で、育てた豚の殺処分に追い込まれた。「蔓延(まんえん)防止の対策が取られることになり、良かった」と話す一方、「豚にワクチンを打った方がいいという気持ちは変わらない」と、現在は国が認めていない豚へのワクチン接種を訴える。

えさ型ワクチンは手作業で土に埋め、約1週間後に回収する必要があるなど、作業の負担は大きい。国は3月の開始を見込むが、愛知県の岡地啓之・畜産課長は「短期間で、となれば経費も労力もかかるが、どのぐらいかは現時点でわからない」と述べた。

専門家の間でも評価が分かれる。宮崎大の末吉益雄教授(獣医学)は「4~5年かけてやれば、岐阜、愛知の養豚場の感染リスクも減らすことができる」と話す。

大阪府立大の向本雅郁教授(獣医感染症学)は「イノシシへのワクチンはドイツなどで成功例があるが、流行を止めるのに7~8年ほどかかった。日本とドイツではイノシシがすむ環境が違い、日本で効果があるかはわからない」と話す。

東京農工大の白井淳資教授(獣医伝染病学)は豚へのワクチンが必要と指摘する。「ワクチン入りのエサをイノシシが食べる保証はない。岐阜は日本の真ん中にあり、西日本にも東日本にも感染が拡大する恐れがある。日本の養豚を救うため、区域を決めて豚にワクチンを使用するべきだ」

【写真説明】

えさ型ワクチン(C)BMEL

《朝日新聞社asahi.com 2019年02月23日より抜粋》

 

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