「命をいただく」とは? 三重・松阪市立天白小学校・草分京子さん
2008年11月17日
「はい、この五つのカードを順番に並べてください」 草分先生に指名された女の子が、難しい言葉のカードをいとも簡単に黒板に並べていく。
「とちく・放血」→「つりあげ」→「はく皮」→「内臓てき出」→「背割り」
これ、実は牛が加工される工程。6年A組の食育の授業だ。
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「では、とちくと放血の作業を見た感想を言ってください」
みんなは3日前、松阪食肉流通センターと食肉衛生検査所に行き、生きた牛が実際に肉にされるところを見学していた。
「とちく銃を頭にあてると、すぐに牛が倒れました」
「牛がものすごく暴れていた」
答えた子が、次に発言する子を指名するリレー方式。
「暴れているのにすぐ首を切って放血していたので、素早い作業だと思いました」
「何で素早くしたの?」と先生。
「血がたまると、ばい菌やウイルスが発生して肉を腐らせる」 センターで聞いた内容だ。
「早くしないと誰が困りますか?」という問いかけには、「消費者!」と声が上がった。
「難しいこというなあー。じゃあ、牛はどう? 苦しまない?」
数年前に担任したクラスで、朝食を食べずに登校し、朝から集中力がない子が目立った。
「よし、力のつく松阪牛を給食にリクエストしよう!」 校区周辺は高級ブランドの松阪牛産地。とはいえ、給食センターなどに頼むからには、松阪牛をもっと知らなければ。その年から松阪牛をはじめとする食育の授業が始まった。松阪牛給食の前に、学ぶことはたくさんある。
畜産農家を招いて世話の仕方などを聞き、牛に触った。食肉衛生検査所の獣医師には、肉に変わるまでの流れを教えてもらった。「牛が殺される場面を見せるのは残酷過ぎるのでは?」という声も心配したが、見学後の授業を公開することで理解してもらえた。乳牛と肉牛の違いも牧場で考えた。
「乳牛は、人が近づくと逃げるのに、松阪牛は寄ってきます。人に体をなでられ、お気に入りのエサをもらい、愛情たっぷりで育つからです」
いろんな人の思いがつまっている血や肉をいただく人間。自分の命も、いろんな人に支えられていると実感して欲しい。それが先生の願いだ。
「はく皮ってどういうこと?」
「皮をめくる!」
「そうやね。家でグローブ見てみた? ランドセルやベルト、皮もみんなの身近な物に生まれ変わるんやね。内臓てき出は?」
「内臓がぼくの顔ぐらいデカくて、すごいと思いました」
子どもたちの声は途切れない。毎日、日記や感想文を宿題に出し気持ちを書く訓練をしていることが、言葉につながっている。
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最後に、この日の学級通信を配った。いつも通り、ある子の日記が載っている。とちく作業を見る前、怖くておなかが痛くなった子だ。「でも、今までよりもっと命をくれている動物たちにありがとうと思いたい」と書かれている。
「みんなは行ってよかった? いよいよ明日は松阪牛の給食、食べますよー」(宮坂麻子)
《朝日新聞社asahi.com 2008年11月17日より引用》