低リスクでiPS細胞 米研究者、ウイルス不要製法に道
2008年05月12日07時50分
体細胞に組み込む遺伝子の数を二つに減らす新しい方法で、人の万能細胞(iPS細胞)を作製することに米国スクリプス研究所のシェン・ディン准教授が成功した。組み込みにウイルスが必要な遺伝子を、化合物で代替し、予想外の副作用やがん化のリスクを避けることをめざしている。11日、京都市で開かれた国際シンポジウムで明らかにした。ディン准教授は、遺伝子一つでの研究も開始、「数年以内には、化合物だけを使った、より安全な方法を確立したい」と話している。
京都大の山中伸弥教授らが06年に発表したiPS細胞の作製方法では、がん遺伝子を含む四つの遺伝子をウイルスを運び屋として組み込んでいた。がん遺伝子をのぞく三つの遺伝子で作製する方法も開発したが、ウイルスは使っている。iPS細胞は、あらゆる臓器の細胞にすることができ、再生医療への応用が期待されるが、ウイルスの使用が安全性の課題となっている。
ディン准教授は06年の京大の発表直後からマウスと人の細胞で研究を始めた。四つの遺伝子のうち、がん遺伝子を含む二つを使わず、代わりに人工合成された化合物を使って、人の体細胞からiPS細胞を作ることができた。化合物の名前は、戦略上明らかにできないという。
遺伝子やウイルスを使わずにiPS細胞をつくる研究は山中教授を含め、米国や欧州などでも始まり、水面下で激しい競争が繰り広げられているとされるが、成果を発表したのは、今回が初めてだ。
《朝日新聞社asahi.com 2008年05月12日より引用》