20190207

(時時刻刻)豚コレラ、一気に飛び火 異常発覚、出荷自粛求めず 愛知県、その間に豚は長野へ=訂正・おわびあり


2019年02月07日

 

愛知県の養豚場から中部・近畿の5府県に拡大した豚(とん)コレラ。昨年9月に26年ぶりに岐阜県で感染が確認されて以来、国や自治体は対策を進めてきたが、感染拡大を防げなかった。徹底した封じ込めを呼びかけるが、終息は見えない。▼1面参照

豚コレラの発生は、これまで相次いでいた岐阜県から一気に30キロほど離れた愛知県豊田市に飛び火した。ここの養豚場から出荷された6府県のうち5府県で感染が確認され、予定されている殺処分数は計約1万6千頭にのぼる。

岐阜県では野生イノシシから感染が広がった可能性が指摘されているが、この養豚場は田畑に囲まれ、近くにはトヨタ自動車など車関連の工場が点在している。地元の70代男性は「養豚場といっても豚の姿も見えない工場のようだったので、病気とかは関係ないと思っていた」と話す。岐阜県内で確認されているウイルスと同型と判明したが、愛知県は「感染経路は不明」としている。

豚のブランド化に取り組み、管理が行き届いているとみられていた養豚場だが、大阪、滋賀、岐阜に感染を広げることになった。1月18日から2月3日まで出荷を続けていたためだ。

県が養豚場から連絡を受けたのは4日午前。「1月27日から、母豚6頭のうち1頭の食欲がない。その後、だんだん数が増え、流産もあった」と説明され、獣医師2人が白血球などの検査を実施した。

ただ大量死するなどの事態ではなかったため、別の病気の可能性が高いと判断。豚コレラなどの検査を翌5日に回したという。出荷自粛も求めなかった。5日午前9時に検査を始める際に出荷自粛を要請したが、経営者から「2時間ほど前に長野県に80頭出荷した」と告げられたという。

6日夕の愛知県の会見で、「豚に異常があった時点で出荷自粛を要請していれば、少なくとも長野への感染拡大は防げたのではないか」と、県の対応を疑問視する質問が相次いだ。県の担当者は「(検査したすべての豚の)白血球の数値が上がるなどしておらず、豚コレラを疑えなかったのはやむを得ない」と釈明した。

■わかりにくい症状・強い感染力

岐阜県でも昨年9月の最初の発生確認時、獣医師が「熱射病」と判断して豚コレラの検査が遅れた。「豚コレラならもっと豚が死ぬはず」と考えていたという。県幹部は「『豚コレラといえばこの症状』というものがはっきりしないまま出てくることがある」と困惑する。

一方で感染力は非常に強い。長野県宮田村の養豚場では、豊田市の養豚場の子豚が5日午前に到着した直後、子豚を乗せてきたトラックを使って松本市の食肉処理場へ別の豚38頭を出荷していた。検査の結果、このうち12頭も陽性とわかった。トラックに落ちたふんなどから感染したのではないかという。

■衛生管理・イノシシ対策、予防のカギ

「点」の汚染を、これ以上「面」に広げない。いまは、その瀬戸際だ。

対策の鍵を握るのは、各地の養豚場での衛生管理の徹底だ。豚舎付近に入る際には衣服を替え、靴をきちんと洗浄、消毒しているか。野生動物が出入りするような抜け穴はないのか。農林水産省は昨年9月以降、全国の都道府県にこうした対策を呼びかけてきた。だが岐阜県関市の養豚場では、豚コレラの発生後に農水省が調べたところ、野良猫がすみついていたり、作業員が適切に靴を替えていなかったりといったずさんなケースもあった。

こうしたことから、農水省は6日、岐阜市に現地対策本部を設置し、他県の獣医師など「外部の目」も入れた現地確認を始めるところだった。

対策のもう一つの鍵は、野生イノシシ対策だ。この時期は繁殖期を迎え、オスの行動範囲が広がっており、汚染が広がる恐れがある。岐阜県では、野生イノシシの侵入を防ぐ防護柵を川沿いに設置してきた。国は費用負担するなどし、同様の対策を愛知県でも急ぐ。

畜産業界からは、野生イノシシへのワクチンの経口接種を望む声も出ている。飼育動物と違って注射が難しいため、イノシシが好む香りをつけたワクチン入りのえさを土の中に埋め、食べさせる作戦だ。

ただ、農水省によると、先行例がある欧州の報告では効果を疑問視するものもある。「ワクチンがすべてを解決するわけではない。まず重要なのは、ウイルスを入れないように衛生管理を徹底すること」と担当者は力を込める。

◆キーワード

<豚コレラ> ウイルスによる豚やイノシシ特有の伝染病。感染力が強く、豚のフン尿や血が付いた衣服や長靴などを介しても拡散する。人には感染しない。

国内では1888年、米国から北海道への輸入豚で初めて発生が報告された。近年は1992年の熊本を最後に発生はなかったが、昨年9月、岐阜県の養豚場で感染を26年ぶりに確認。

【写真説明】

豚コレラの陽性が確認された養豚場前で、豚の殺処分の作業に当たる愛知県職員や陸上自衛隊員ら=6日午後1時24分、愛知県豊田市、戸村登撮影

【図】

野生のイノシシに豚コレラが出た自治体/豚コレラが確認された日と施設

 

《朝日新聞社asahi.com 2019年02月07日より抜粋》

 

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