ES細胞で、赤血球を無限に作ることに成功 マウスで
2008年02月06日10時00分
万能細胞の一種、胚(はい)性幹細胞(ES細胞)を使って赤血球を無限に作り出す方法にマウスでめどを付けたと、理化学研究所バイオリソースセンター(茨城県つくば市)の中村幸夫室長らが、6日付の米科学誌プロスワンに発表する。すでに人間のES細胞でも同様の研究を始め、別の万能細胞(iPS細胞)を使った研究も計画している。臨床応用できれば、献血に代わる可能性がある。
チームはこれまでに、人の骨髄などにある血液幹細胞から赤血球への分化を効率よく進める手法を確立しているが、この幹細胞には寿命があり、赤血球を無限に作らせることはできなかった。
今回はマウスの8種類のES細胞株を使い、栄養細胞や増殖因子とともに培養する実験を繰り返した。その結果、1年以上増殖し続ける3種類の赤血球前駆細胞株を作り出すことに成功した。前駆細胞が赤血球のもとになるので、赤血球を無限に作れることになる。
薬で急性貧血にしたマウスにこの前駆細胞を移植したところ、赤血球の数やヘモグロビンの量などが増え、体内で前駆細胞が赤血球に分化したことが裏付けられた。貧血症状も改善。重症のマウスでは前駆細胞を移植した8匹では7匹が生き延びたが、移植しなかった8匹では7匹が死んだ。
万能細胞から作った細胞では異常増殖などによるがん化が最も怖い。だが完全な赤血球まで分化させれば増殖にかかわる情報を持つ核が抜け、がん化の心配はない。今回作った前駆細胞株ではできた赤血球の9割に核が残り、まだ分化が不完全だが、放射線を当てて核の残った細胞を完全に除くこともできる。
人で実用化できれば、輸血用血液の不足や輸血血液を介した感染リスクといった問題の克服に一役買いそうだ。同じ血液型なら他人のES細胞が使える。
中村さんは「人の血液幹細胞からの分化誘導はすでに成功している。これらを応用できることを考えると、臨床にかなり近づいた」という。
■臨床応用に期待
〈中内啓光東京大教授(再生医学・幹細胞治療)の話〉 ユニークで実用性が高い成果だ。赤血球は核がなく、移植の安全性も高い。造血系や免疫系は人間とマウスで似ており、人間の万能細胞でもできる可能性が高いだけに、近い将来の臨床応用が期待される。
《朝日新聞社asahi.com 2008年02月06日より引用》