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日欧EPA、いよいよ発効 小売業界、需要増に期待/酪農、TPPと二重苦


2019年01月30日

 

日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)が2月1日午前0時に発効する。将来的に品目数で日本側約94%、EU側約99%の関税が撤廃される。欧州産ワインなど、すぐに関税ゼロになる品目もあり、消費者には一定の恩恵をもたらす。一方で輸入品の攻勢を受ける国内生産者は身構える。

■ワイン先取りセール 小売業界、需要増に期待

発効を前に、小売業界では、EUからの輸入品の値下げや販売を強化する動きが広がる。

イオンはフランス産ワインなどの「先取りセール」を実施中だ。18日から25商品を値下げしたのに続き、2月1日にはさらに約300商品を平均で約1割値下げする。「特別な日に限らず、日常的にワインを飲むきっかけになれば」(広報)と期待を寄せる。

高級スーパーの明治屋も3月1日にフランス産やイタリア産ワインを2~10%値下げする。赤ワインや白ワインより関税が高めのスパークリングワインは特に値下げ幅を大きくするといい、担当者は「販売増に期待したい」。EUからの輸入が多いチーズ売り場の面積を2倍にした店舗もある。

酒類大手も2月以降、欧州産ワインの値下げに踏み切る。キリンホールディングス傘下のメルシャンは、手頃な中価格帯(1千円~2千円)を中心に最大で約20%引き下げる。代野照幸社長は「EUとのEPAの発効は、停滞する国内ワイン市場を活性化させるインパクトがある」と期待する。

EUからの繊維製品の関税も即時撤廃される。そごう・西武は輸入衣料の売り場で、欧州フェアを開催し、国ごとのブランドを紹介することを検討中だ。「うちで価格を決められる一部の商品は価格を下げることも想定している」という。松屋銀座も紳士スーツの生地の関税が下がることを踏まえ、「価格に反映できるようにしていきたい」。

一方、日本酒はEUへの輸出に追い風が吹く。100リットル当たり最高7・7ユーロ(約960円)かかる関税が即時撤廃されるからだ。新潟県酒造組合で海外戦略を担当する田中洋介さん(今代司〈いまよつかさ〉酒造社長)は「フランスなどで日本食への関心は高く、食中酒としてもっと広めたい」と意気込む。(長橋亮文、高橋末菜)

■競争力強化の動きも 酪農、TPPと二重苦

EUからの安い輸入品がどっと入れば、国内での農畜産物の生産にも影響が出る。すでに昨年末、11カ国が加盟する環太平洋経済連携協定(TPP)が発効。豪州などから安い農産物が入ってきており、国内生産者にとって「ダブルパンチ」になりかねない。

特に影響が大きそうなのは、チーズやバターといった乳製品だ。日EUのEPAでは、TPPで対象外だったカマンベールやモッツァレラなどのソフト系チーズに低関税の輸入枠が設けられ、発効16年目に関税がゼロになる。

農林水産省は、日EUのEPAによって国内の農産物生産額は最大686億円減ると試算するが、その約3分の1は乳製品だ。乳製品はTPPでも最大314億円の影響があるという。販売が落ち込み、原料となる生乳の価格が下落すれば、酪農家には打撃となる。

安い輸入品に対抗するため、今のうちに経営規模を拡大して競争力を強化する動きも出ている。

生乳の生産量が全国の半数超を占める北海道の中でも有数の酪農地帯、中標津町の纓坂(おさか)直俊さん(39)は昨年5月、国の補助金を活用し、約3千万円の搾乳ロボットを2台導入した。乳牛をこれまでの倍、200頭超に増やす計画で、「自由貿易への不安はあるが、生産コストを下げて乗り切りたい」と話す。(長崎潤一郎)

【写真説明】

ワイン売り場=いずれも東京都渋谷区の明治屋広尾ストアー

チーズの売り場を2倍に拡張した

【図】

日EUのEPAで幅広い関税が下がる

一方、豚肉と鶏肉は今回、輸出解禁が見送られた。(大日向寛文)

 

《朝日新聞社asahi.com 2019年01月30日より抜粋》

 

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