牛&ヤギで、イノシシ・シカ害を抑制 各地で試み広がる
2007年07月13日10時25分
- 左側の山林に接したブドウ園(右)で実験的に放牧されているダチョウ。周囲の様子をうかがったり、草をついばんだりしていた=滋賀県高島市で
- 獣害対策のイメージ
山間地の田畑の周りで牛やヤギを放牧し、イノシシやシカなどの野生動物が農作物を食い荒らすのを防ぐ試みが各地で広がっている。田畑に近い茂みに身をひそめ、様子をうかがってから入り込む野生動物の性質に着目。茂みを伐採して野生動物を侵入しづらくしたうえで家畜を放し、再び茂みにならないよう草取りを任せる。牛を避ける「知恵」をつけたサル対策として、ダチョウを使う実験も始まっている。
京都府北部の綾部市鍛治屋(かじや)町。2頭の雌牛が水田わきの竹林で草をはんでいた。「のどかに食べているようで、実は田を守る役目を果たしているんです」。地元自治会副会長の農業、山下徹さん(65)が説明する。
まきで米を炊いていたころは、しば刈りで自然に山林と田畑の間に木を切り払った「緩衝地帯」ができていた。その習慣がなくなった20年ほど前から、イノシシやシカが田に頻繁に入り込み、稲を食べるようになった。府中丹(ちゅうたん)広域振興局管内(福知山、舞鶴、綾部各市)では、野生動物による農林業被害が05年度で約1億5900万円にのぼる。同地区では、農家など73軒が同振興局の実験に協力。昨年1月、田に接する山林の木や竹を切り、約3ヘクタールの緩衝地帯をつくり、同3月から9カ月間、牛2頭を放牧した。
山下さんによると、対策後もイノシシやシカは緩衝地帯を避けて田に入り、被害は完全にはなくなっていない。だが、緩衝地帯の近くでは稲の被害が確実に減っている。
滋賀県では、01年に初めて木之本町内で牛とヤギ、羊を放牧した。家畜が逃げないよう、地元集落が県からの補助金約40万円で緩衝地帯を囲むさくを設置。イノシシやシカが約3ヘクタールある集落の田にほとんど出没しなくなり、かつてはほぼ全滅させられていた稲の被害がゼロになったという。
しかし、サルは5年ほどで慣れ始め、緩衝地帯でも牛のいない所を選んで出没するようになった。そこで、去年8月から攻撃的な性質をもつダチョウを同県高島市のブドウ園で実験的に放牧し、サルの「天敵」になるかどうかを観察している。今のところ、サルとダチョウが互いに警戒している状態という。
指導している県農業技術振興センター栽培研究部湖北分場の山中成元(せいげん)さん(42)は「ダチョウは食用にもなるので、効果があることがわかれば一石二鳥」と話す。
兵庫県の洲本、丹波両市や香美町、奈良県明日香村なども同様の取り組みを始めた。農林水産省は山里の景観復活にもつながるとして、今年度、鳥獣害防止対策費約1億8000万円の一部を緩衝地帯の囲い設置への補助などに充て、普及を後押ししている。
《朝日新聞社asahi.com2007年07月13日より引用》