21・23カ月BSE牛、感染性確認できず 国の研究班
2007年05月09日05時58分
03年に日本で牛海綿状脳症(BSE)と判定された生後23カ月と21カ月の牛の脳を材料にマウスで実験したところ、感染性を確認できなかったことが、厚生労働省の研究班(主任研究者=佐多徹太郎・国立感染症研究所感染病理部長)の中間報告で明らかになった。人への感染の恐れも無視できるとの判断につながる可能性がある。日本はこの2頭の存在を根拠に、米国産牛肉の輸入条件を月齢20カ月以下に制限しており、条件緩和を求める米国との交渉に大きな影響を与えそうだ。
研究班は、この実験結果をもとに詳細な学術論文をまとめているところで、厚労省も内閣府の食品安全委員会に報告する準備を進めている。
生後23カ月の牛は01年10月に、21カ月の牛は02年1月に生まれ、それぞれ03年10月と11月、茨城県と広島県で食肉処理された際にBSEと判定された。世界的にも珍しい若齢の感染牛とされた。
BSEの原因物質である異常プリオンたんぱく質が検出されればBSEと判定されるが、この2頭は通常の感染牛の500分の1~1000分の1とごく微量だったことなどから、動物衛生研究所(茨城県つくば市)で感染性を確かめる実験を研究班が続けていた。
実験では、感染牛の脳から抽出した液を、感染しやすいように遺伝子操作した特殊なマウスの脳に注射。通常なら220日程度でマウスに病状が出るなどして感染がわかるが、朝日新聞が入手した報告書などによると、23カ月の牛の脳の液を注射したマウス5匹は600~860日、21カ月のマウス6匹は505~927日生きたが、どれも感染が確認できなかった。
さらに、マウス同士では牛からよりも感染しやすく異常プリオンたんぱく質の量が増えるため、実験に使ったマウスの脳の液を別のマウスに注射する実験もした。だが、23カ月では550日、21カ月では495日たっても感染が確認されていないという。専門家は「このマウス同士での実験でも確認されないということは、もう感染性の証明は難しいだろう」と話す。
米国産牛肉の輸入再開交渉では、米国は「生後30カ月以下の骨なし肉は安全」とする国際獣疫事務局の基準適用を求めたが、日本がこの2頭を大きな理由に月齢規制は20カ月以下とするよう主張し、最終合意した。
実験を担当した横山隆・動物衛生研究所プリオン病研究チーム長は「実験結果はまだ公表できない」としつつ、「食肉処理の際の検査で異常プリオンたんぱく質が出たことは間違いない。その段階で食の安全の観点からBSEとし、食肉から除外した判断は間違っていないと考える。実験結果とは別問題だ」としている。
《朝日新聞社asahi.com2007年05月09日より引用》