20070425

牛肉攻勢、必至 米、提訴視野に揺さぶり 米産、輸入緩和へ


2007年04月25日

米国が日本に米国産牛肉の輸入条件緩和を求めていた問題は、日本の専門家による米食肉処理施設への査察を米側が認めたことで、新たな局面を迎える。ただ、現在「生後20カ月以下の牛の肉」に限定している月齢条件を「30カ月以下」へ早急に緩和するよう求める米国に対し、日本には慎重論も根強い。今後、本格化する政府間協議で、米国が日本への圧力を強めるのは必至だ。

米政府は日米合意を「重要な第一歩」と評価する一方で、輸入条件が緩和されないことにいらだちを示している。

国際獣疫事務局(OIE)=キーワード=が5月に、米国を月齢に関係なく牛肉を輸出できる「準安全」国に認定する見通しで、27日の日米首脳会談でも月齢制限の撤廃を促すとみられる。

米畜産業界には「月齢20カ月以下を基準にしているのは日本ぐらい。国際標準は30カ月以下だ」(全米肉牛生産者協会)と不満が募る。ジョハンズ米農務長官は、世界貿易機関(WTO)への提訴も視野に、揺さぶりをかける構えだ。

強気の背景には「牛海綿状脳症(BSE)対策で過去3年間に80万件を超す肉牛検査をした結果、世界の消費者に責任をもって『米国の牛肉は安全に食べられる』といえる」(ブッシュ大統領)との自信がある。これまでの検査ではBSE有病率は「100万頭に1頭より低い水準」(米農務省)だ。

米国の畜産専門家からは「20~30カ月の間の月齢の牛が危険かどうかの立証責任は日本にある」との意見が出ている。(ワシントン=西崎香)

 

○安全委、結論に時間

日本政府は、「日米合意の査察を米国が受け入れなければ、話は進まない」としてきたが、米政府が査察を認めたことで、輸入条件の緩和も待ったなしの状況になる。

査察の結果、米食肉処理施設が日米合意の対日輸出条件を順守していたと確認されれば、厚労省が輸入業者に指導してきた全箱検査を終了。さらに、牛のエサからの感染が防がれているなどBSE対策が十分に機能していると判断されれば、条件緩和の手続きに入る見通しだ。

松岡農水相は24日の記者会見で「最新の科学的知見に基づいて、国内の手続きにのっとっていく」と話し、米国が「準安全」国として認定された後、米国の正式な要望があれば、内閣府の食品安全委員会に条件緩和の是非を諮問するとの見通しを示した。

ただ、安全委の結論が出るのは時間がかかる。また、条件緩和に比較的柔軟な立場の農水省に対して、厚労省は慎重な姿勢だとされ、政府内で必ずしも足並みがそろっていない。条件緩和の手順を踏んでいても米国から「時間稼ぎをしている」との不満が噴き出せば、日米間の摩擦に逆戻りしそうだ。(冨田悦央)

 

○企業側は対応二分

消費の現場は、条件緩和への積極派と消極派に分かれている。

「米国産の牛タンが欲しい」「肩ロース以外の部位は置いてないの?」

米国産牛肉の販売を再開したスーパーでは、不満の声が聞かれる。

米国産牛肉の輸入量は現在月間約2千トン。米国からの輸入が停止される前の10分の1程度にとどまる。スーパーの共同仕入れ機構「シジシージャパン」では加盟217社のうち35社が販売を再開したが、取扱量は合計で月30~35トン程度。「販売を増やしたくても量の確保が難しい」とこぼす。

米国産にこだわる吉野家ディー・アンド・シーでは、牛丼を「復活」させて7カ月になるいまも、販売時間の制限が続く。牛丼チェーンの松屋フーズは「安全性は政府がきっちり議論して、早く流通量を増やしてほしい」と話す。

一方、ある焼き肉チェーンは「客足が遠のく可能性もあり、なし崩し的な緩和は望まない」と語る。販売再開の予定がないスーパー大手のイオンとイトーヨーカ堂は「輸入条件の緩和は販売再開の判断には影響しない」と静観している。(伊藤裕香子、清井聡)

 

◆キーワード

<国際獣疫事務局(OIE)> 家畜の国際的な安全基準を決める機関。本部はパリ。1924年設立。06年5月現在167カ国が加盟。日本は1930年に加盟した。世界各国での家畜の伝染病の発生状況などを調査し、拡大を防ぐための研究や衛生基準などをつくっている。

 

◇納得できるまで尋ねよう(くらしの視点)

米国産牛肉の輸入条件が「生後30カ月以下」に緩和されれば、スーパーや外食産業などで扱う量が増える可能性が高い。米国産牛肉を「おいしい」と感じる人には朗報だろう。

とはいえ、やはり安心や安全面で不安を感じる人もいる。企業側の対応が二分されているのも、消費者にどう「安心で安全な牛肉」であると納得してもらえるかに、頭を悩ませているからだ。

例えば、全店で23日から販売を再開した東北地盤のスーパー、ヨークベニマルの場合は担当者を米国に派遣して安全性を確認。試験販売で消費者から「好評」という反応を探った、と説明する。

それでも安心や安全の基準は個人によって違う。最終的に判断するのは、一人ひとりの消費者だ。不安なときは納得できるまで、店側の説明を聞いてみよう。

 

■米国産牛肉輸入再開後の主な動き

06年
7月27日 米国産牛肉輸入再開を正式決定
8月 9日 輸入再開第1号が販売
11月8日 大阪港で検疫手続き中の牛肉に適格外の胸腺が混入と発表
26日 厚労・農水省の担当者が対日輸出認定施設を現地査察(12月13日まで)

07年
1月11日 ジョハンズ米農務長官が輸入条件緩和を松岡農水相に要請
2月16日 横浜港に到着した牛肉に米農務省が発行する衛生証明書に記載がないバラ肉が混入と発表
3月31日 スーパー大手の西友が関東の20店舗で米国産牛肉の販売を再開
4月 6日 神戸港で衛生証明書に記載がない冷蔵タンが混入と発表
24日 現地査察で問題ない施設から輸入した牛肉の全箱検査を終えることで日米政府が合意

【写真説明】

米国産牛肉の販売を再開するスーパーも増えてきた。3月29日にはシーファー駐日米大使が買い求めた=東京都墨田区で

 

《朝日新聞社asahi.com 2007年04月25日より抜粋》

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