20181226

(回顧2018)豚コレラ、感染拡大 終息の気配なく越年へ /岐阜県】


2018年12月26日

 

9月9日午前3時。枕元の携帯電話が鳴った。「県内で豚(トン)コレラが発生した」との緊急連絡だった。聞き慣れない名前に胸騒ぎがした。あれから100日以上。26年ぶりに国内で発生したウイルスは、おさまる気配すら見せていない。

今月14日、県養豚協会は県に、豚コレラへの防疫対策強化などを求める要望書を提出した。国へワクチン利用を含めた具体的な防疫の進言や、中央家畜保健衛生所への野生イノシシ搬入の中止を「強く要望する」と明記。「本来、生産者を指導していくべき行政が、自ら管理する施設での発生が相次ぎ、業界に計り知れない影響を与えていることは誠に遺憾」と業界の切迫感を伝えた。

養豚場で感染した豚が判明すると、感染拡大を防ぐため、全頭殺処分しなければならない。養豚業者にとって、豚を失うことは生活基盤を失うことを意味する。最初のウイルス発生以降、ワイヤメッシュ柵の設置、専用の衣服や長靴の着用、消毒槽の設置など対策を講じ、警戒を強めている。

そんな中、今月に入り、美濃加茂市の県畜産研究所で感染が確認された。同施設では県などが開発した品種「ボーノブラウン」を育て、交配用の精液を他の養豚場に供給していた。県産ブランド豚肉「ボーノポーク」などの種豚になっていたが、殺処分された。

県養豚協会は、長年の研究と改良を重ねた県産豚を「宝」と称し、落胆した。豚の精液を保存する技術はまだ確立されていない。今後、民間が飼う種豚を借りるなど協力を得て、同研究所の機能再建を進めるという。再建には、数年かかるとみられる。

行政施設での感染が相次ぎ、国は県の体制不備を非難している。国の調査チームはこれまで、海外からウイルスに汚染された食品が不正に持ち込まれ、野生イノシシに感染した可能性を示している。国の水際対策は万全だったのか。

今月21日、ようやく有識者による会議が開かれた。県の見通しに甘さはなかったか。翌22日には、愛知県犬山市で野生イノシシから豚コレラの感染が確認され、25日には、関市内の民間養豚場で発生。7861頭の豚を殺処分する予定で、埋却や消毒を含む防疫措置が完了するのは、年明けになる見通しだ。

2019年は亥年。豚コレラが終息に向かう兆しは見えていない。

(室田賢)

◆キーワード

<豚コレラ> ウイルスによる豚やイノシシ特有の伝染病。感染力が強く、発熱や下痢などの症状が出て致死率が高いが、人には感染しない。内閣府の食品安全委員会は、仮に感染した豚やイノシシの肉などを食べても人体への影響はないとしている。

■豚コレラをめぐる経緯

8月
24日 前日までに岐阜市の養豚場で豚が死亡。県の検査で「感染症の可能性はあった」が、熱射病と診断
9月
3日 岐阜市の獣医師が死亡豚の病性鑑定を県に依頼
7日 岐阜県の検査で豚コレラウイルスの陽性判定
9日 国の精密検査で養豚場の豚の感染が確定
14日 岐阜市内で死んだ野生イノシシの感染を初めて確認
11月
16日 岐阜市畜産センター公園で豚の2例目の感染を確認
12月
5日 美濃加茂市の県畜産研究所で豚の3例目の感染を確認
10日 関市のイノシシ飼育施設で感染を確認。飼育下で4例目。
15日 可児市の県農業大学校で豚の感染を確認。飼育下で5例目。
25日 関市の養豚場で豚の感染を確認。飼育下で6例目。約7500頭の殺処分が決まり、自衛隊に応援要請。
~25日 野生イノシシの陽性確認が県内で80頭に。

《朝日新聞社asahi.com 2018年12月26日より抜粋》

 

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