受精卵使わずES細胞 国内で成功例相次ぐ
2006年12月24日
受精卵を全く、あるいはほとんど使わずに、再生医療で期待される「万能細胞」を作ろうという研究が、国内で盛んに進められている。政府の総合科学技術会議は受精卵やクローン胚(はい)を「生命の萌芽(ほうが)」と位置づけており、宗教界の一部には受精卵などの使用に強い抵抗がある。受精卵を使わなければ、こうした生命倫理問題が回避できると期待されている。
様々な組織や細胞になり得る万能細胞は、事故や病気で失われた機能を回復する再生医療の焦点だ。受精卵が分割を繰り返した「胚盤胞」を壊して作る胚性幹細胞(ES細胞)が代表格だ。
だが、理化学研究所(神戸市)の若山照彦チームリーダーらは、マウスの未受精卵に化学物質で刺激を与えて分裂を起こさせ、未受精卵からのES細胞を作った。さらに、その細胞核を別のマウスの未受精卵の核と置き換えて、再びES細胞を作る「2段階方式」を編み出した。
2段階目のES細胞が特定の神経などに分化する能力は、1段階目のES細胞の3~4倍になった。未受精卵からのES細胞は、受精卵からのES細胞より分化能力が低いのが難点だったが、若山さんの2段階目は受精卵ES細胞の最大7割程度の分化能力を示した。
一方、京都大再生医科学研究所の多田高・助教授らのグループは年明けにも、受精卵ES細胞に体細胞を融合させて、万能細胞にする研究を始める。すでにマウスでは成功している。この手法なら、受精卵の破壊は最初にES細胞をつくる時だけで済む。
同じ再生研の中辻憲夫教授らは、未受精卵からのES細胞を別々に100株用意すれば、拒絶反応に影響するHLA型(人の白血球型)をほぼそろえることが可能だとする分析結果をまとめた。日本人の90%が、自分に合ったHLA型のES細胞からつくった細胞や組織を使うことで、拒絶反応の心配が少ない移植を受けられるという。
中辻さんは「未受精卵からES細胞を作る研究は、米国でも積極的に進められている。今後、ES細胞バンクの設置が重要な課題になるだろう」と言っている。
《朝日新聞社asahi.com 2006年12月24日より引用》