(文化の扉)動物と人間、関係の行方 愛玩・肉食…矛盾だらけ/幸せ願う福祉の潮流
2018年11月05日
■希少和種、手塩にかけて
牛の赤身肉は、肉を食らう感じがいい。舌にとろける「霜降り」は黒毛和種の象徴。だが、近年、赤身肉の人気が急上昇するにつれて、脂がしつこくない褐毛(あかげ)和種が注目を集めている。
和牛は黒毛と褐毛に大別され、褐毛はさらに熊本系と高知系に分かれる。熊本系が広く流通するなか、高知系の「土佐あかうし」をもっと押し出そうと、研究に励む学生たちが高知大農林海洋科学部にいる。家畜飼養管理学研究室、通称「あかうし研」だ。
高知龍馬空港(高知県南国市)の脇の草地。10月半ば、あかうし研の放牧場で牛たちがのんびりと草を食べていた。体全体はオレンジ色に近い茶色の毛に包まれ、目の周りや尾の先、ひづめは黒く、愛らしい。
牛は、放牧場と牛舎にほぼ半数ずつ計80頭。性格が温和で足腰が強いため放牧に適している。学生を指導する松川和嗣(かずつぐ)准教授(45)=家畜繁殖学=によると、高知大は国内で唯一、褐毛の牛を専門に研究している大学だという。
和牛の世界では黒毛の需要が大きい。あかうし研では、まだ飼育頭数の少ない土佐あかうしの種の保存に向けて取り組んでいる。
その柱は遺伝資源の保存だ。クローン牛の誕生を目指し、体細胞などを乾燥させて常温で保存する技術の開発を進める。乾燥した体細胞は水分を与え、卵子に入れてクローン胚(はい)を作る仕組みだ。
細胞や受精卵は液体窒素を使った冷却装置で凍結保存されるのが一般的だ。あかうし研の乾燥方式は停電でも保存でき、小さな保存容器はすぐに持ち運べるため津波対策になる利点がある。「世界と競いながら役に立てる研究を学生としたい」と松川准教授。
畜産農家を増やすための研究も続く。学生が育てた牛は生後28カ月で市場に出荷する。出荷前には県特産のユズの搾りかすを餌に混ぜている。牛はストレスが減って健康体に。脂がしつこくなく味わい深いと好評だという。将来的に「柚子(ゆず)だっこ」のブランド名で流通させることが目標だ。
あかうし研のメンバーは、松川准教授と学生8人、技術職員ら計13人。4年生の3人はこの1年間、毎朝交代で餌をやり、牛舎を掃除する世話を続けてきた。牧場に就職予定の徳島県出身の福岡由希子さん(22)は「ユズの餌をやるのは楽しかった。将来は飼料を効率的に与える方法などを勉強したい」。(清野貴幸)
<土佐あかうし> 正式名は「褐毛和種高知系」。高知大によると、明治時代に韓国から輸入された農耕用などの役牛が改良され、高知系と熊本系に分かれた。2018年時点で、北海道や東北などでも飼育されている熊本系が少なくとも約1万9千頭いるのに対し、高知系はほぼ高知県内だけで飼育され、約2200頭しかいない。だが近年は肉質や食味が評価され、東京や大阪など都市部の料理店から引き合いが増えている。
【写真説明】
松川和嗣准教授(左)らあかうし研のメンバー
学生が育てた土佐あかうしのモモ肉=いずれも高知県南国市物部乙
《朝日新聞社asahi.com 2018年11月05日より抜粋》