和牛、豪州に挑む 17年ぶり輸出再開、商機
2018年08月27日
日本の和牛業界がオーストラリアへ売り込みを始めた。豪州産ビーフが日本市場で定着する中での「逆上陸」だ。実は豪州では「オージー・ワギュウ」が生産され、海外に輸出もされている。ワギュウもいる牛肉大国への進出に商機はあるのか。
シドニーのホテルで20日、日本の食を売り出す商談会が開かれた。日本貿易振興機構(ジェトロ)の主催で、日本の食品業者20団体が出品した。訪れた約250人の注目をとりわけ集めたのは、9団体が出品した和牛のブースだ。
鹿児島和牛のブースでは、小さく切った肉をその場で焼いて試食用に提供。シドニー市内の焼き肉店の料理人デビッド・ヘイルさん(32)は「美しい霜降り肉でおいしい。焼き肉なら30秒も焼けば十分だ」と興味津々の様子。鹿児島県の田中和宏・畜産国際経済連携対策監は「実際に食べてもらえば、今まで食べていた牛肉との違いをわかってもらえる」と話した。
豪州は日本でBSE(牛海綿状脳症)が発生した2001年に輸入を禁止。今回、17年ぶりに再開した。
日本の牛肉輸出は、昨年は2707トンと前年比で4割増えた。農水省は19年に4千トンに増やす目標を掲げる。アジアや欧米が主な輸出先だが、移民社会で多様な食への関心が高く、日本食レストランが1998店(17年10月現在)と多い豪州も新規市場として期待する。商談会に訪れた上月良祐・農水政務官は「日本で和牛がなくなってしまうくらい、豪州で愛されてほしい」と語った。
■ライバルは「ワギュウ」
豪州は世界3位の牛肉輸出国で、年間約101万トン(17年)を輸出する。なかでも日本への輸出は29万2千トンと最大だ。そんな牛肉大国は「ワギュウ大国」でもある。
日本では、黒毛和種など肉専用種の4種類とそれら同士を掛け合わせた牛だけを「和牛」と表示できる。豪州では90年代から和牛の精子や受精卵を輸入しており、豪州牛との交配種でも、和牛の遺伝子が50%以上なら「ワギュウ(Wagyu)」の名で売られる。
豪州ワギュウ協会(AWA)によると、16年の輸出は2万4千トンと日本の牛肉輸出の約10倍。約30カ国で売られている。
豪南東部アレクサンドラのブラックモア農場はその代表例。日本の和牛の遺伝子を100%引き継いだワギュウを育て、十数カ国の高級料理店などに売る。
広大な牧場で牧草をえさに育てる。牛舎で飼料を与えることの多い和牛と違い、独特の風味があるという。オーナーのデビッド・ブラックモアさんは「我々は和牛の複製を作る気はない。進出の影響は受けない」と自信を見せる。
■ステーキでなく、新たな食文化に
シドニーの高級ステーキ店「ロックプール」は、ブラックモア農場のワギュウステーキを出す。週に200皿の注文があるが、その数は豪州牛ステーキの10分の1だ。シェフのコーリー・コステロさんによると、1グラム当たりで一般の豪州牛の約3倍という価格差もあるが、ステーキ好きの豪州人にとっても「こってりしていて、大きなステーキだと食べきれない」という。
そんななか、「日本の和牛がベスト」と関心を示すのが、シドニーの精肉店「ビクターチャーチル」の責任者ダレン・オルークさんだ。和牛はワギュウより値段が高いが、オルークさんは、和牛は「濃厚なので大きなステーキで食べる必要はない」と言い切る。
しゃぶしゃぶ用、小ぶりな100グラムのステーキ用などなら豪州産の大きなステーキ肉を買うのと、金額に差はない。豪州では従来、肉は薄切りではあまり売られておらず、「和牛は豪州の食文化を変える可能性がある」と言う。(シドニー=小暮哲夫)
【写真説明】
(上)和牛を売り込む商談会。その場で焼いた肉を豪州の業界関係者に試食してもらうブースもあった=20日、シドニー
(下)ブラックモア農場で育てられているオーストラリア生まれのワギュウ。広い敷地に放し飼いにされていた=豪南東部アレクサンドラ、いずれも小暮哲夫撮影
《朝日新聞社asahi.com 2018年08月27日より抜粋》