(Dear Girls)育てリーダー、「畜産女子」NZへ
2018年07月29日
畜産を学んでいる全国の女子高校生20人が8月、ニュージーランド(NZ)での研修に臨む。社会の男女格差が小さく、女性の就農者の活躍も目立つ「酪農王国」での学びを、日本の畜産業に生かしてほしい、と関係者は期待する。
■酪農・男女平等の先進国で研修
研修は、「未来の畜産女子育成プロジェクト NZ酪農研修」。公益社団法人「国際農業者交流協会」が主催し、8月18日から12日間の日程で行われる。女性農業者のリーダーを育てようと、日本中央競馬会(JRA)が畜産振興事業として渡航費や滞在費などを助成する。73人が応募し、北海道から熊本まで、20人が選ばれた。
NZでは、アグリビジネスを学ぶ政府の指定校となっている公立女子校を拠点に、実習や農場見学などをする予定という。
6月に都内のNZ大使館で行われた事前研修で、農林水産省の担当者は「日本の農業には若い女性の力が必要」と訴えた。
同省によると、仕事として主に自営農業をしている基幹的農業従事者およそ151万人のうち、50歳未満の人はわずか1割。また、4割にあたる60万人が女性なのに、経営主の女性比率は1割に満たない。担当者は「女性が経営主や役員などを務める経営体は、そうでない場合より売り上げや収益力が向上する傾向がある」とし、「畜産女子」たちの活躍に期待を示した。
研修先にNZが選ばれたのは、酪農が盛んなことに加え、男女平等の「先進国」という理由もある。世界経済フォーラムによる昨年のジェンダーギャップ(男女格差)指数ランキングで、NZは144カ国中9位(日本は114位)と、格差が小さいことで知られる。
同協会の吉川隆志事務局長は「男女格差が小さい社会の感覚を体感し、日本の課題や、そのなかで自分たちが果たせる役割についても考える機会にしてほしい」と話す。
■後継者不足「衰退止めたい」
17日午後、東京都立瑞穂農芸高校の畜産科学科3年、春日鈴音さんは長袖長ズボンの作業着に身を包み、汗びっしょりになりながら、1週間前に生まれたばかりの子牛セナの体のサイズを測っていた。
「39キロで生まれて、もう5キロ増えました。でも、夏ばて気味の子もいて心配」。週末や年末年始も、交代で13頭の牛たちの世話をしている。
春日さんは、NZ酪農研修の参加者の一人だ。畜産系の大学に進み、アニマルウェルフェア(動物福祉)を学びたいと考えている。「NZでは、家畜がより快適に過ごせる管理の仕方を学びたい」
埼玉県立杉戸農業高校の生物生産技術科3年、糸川夏海さんは「高校には牛が1頭しかおらず、搾乳もできない。現場が見たい」と参加を決めた。父親は、酪農家を手助けする「酪農ヘルパー」。都合がつく日は仕事に同行し、エサやりや掃除、搾乳などを手伝ってきた。糸川さんは、経営が厳しかったり後継者がいなかったりして、牧場をやめていく酪農家たちを多く見て「酪農の衰退を止めたいという思いが強まった」という。
将来、多くの人が酪農を体験し、その魅力に触れられるような牧場を都市近郊に造りたいと考えている。「いろいろな国や地域の取り組みを学び、良いところを採り入れたい。女性の進出が進み、新しい視点や考え方をプラスできれば、日本の酪農はもっとよくなると思う」と意気込む。
熊本県立熊本農業高校畜産科の今林楓(かえで)さんは、参加者で唯一の1年生だ。牧場を営む祖父に憧れ、後を継ぐと決めているという。「家畜の飼育環境を学び、日本でいろんな人に伝えていきたい」(三島あずさ)
【写真説明】
(上)事前研修に参加した「畜産女子」たち=6月15日、東京都渋谷区の在日ニュージーランド大使館(同大使館提供)
(下)子牛の世話をする春日鈴音さん=東京都瑞穂町の都立瑞穂農芸高校
《朝日新聞社asahi.com 2018年07月29日より抜粋》