ヒトの免疫持つマウス、九大チーム作製 薬剤開発に期待
2006年03月20日09時05分
免疫系の大半がヒトと同じ実験用マウスを作ることに、九州大医学部第一内科のチームが成功した。免疫系のように複雑なシステムで本格的にヒトを模すことができたのは初めてで、米専門誌に論文を発表し、内外で特許を申請した。この「ヒト免疫化マウス」を使えば、よりヒトに近い実験結果が得られ、病気の仕組み解明や新たな治療法の検証、安全性が高い医薬品の開発などにつながると期待される。
チームはまず、遺伝子操作でマウス本来の免疫系が働かないマウスを作り、拒絶反応が起きないようにした。生まれて48時間以内にヒトの造血幹細胞を静脈に注射して移植したところ、うまく骨髄に根付いて、ヒトの各種免疫細胞に効率的に分化していった。一部にマウス本来の免疫細胞も残るが、免疫の中心を担うT細胞やB細胞、がん細胞などを攻撃するNK細胞はほぼヒトの細胞だけになっていた。
マウスは医学研究や薬剤開発の実験で最もよく使われる。各種の免疫細胞を持つものの、ヒトとは性質が違う部分が残るのが課題だった。ヒト免疫化マウスならば、例えば、ある人のがん細胞を植え付けた上で、抗がん剤の効き方や副作用をその人にかなり近い状態で事前に評価するといったことが期待される。
また、現在製造過程でマウスを使っている抗体医薬品にはマウス由来の部分が残り、副作用の一因とされていたが、問題の大部分が解消される可能性がある。
ヒト免疫化マウス作製の中心を担った石川文彦さんは今年1月、理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センターに移り研究を続けている。「完全なヒト免疫化まで70%ぐらいのところに来た。さらに向上させるとともに、実際にこのマウスでがんやアレルギー、自己免疫疾患など様々な病気モデルを作ることが次の課題だ」と言う。
垣生(はぶ)園子・東海大教授(免疫学)は「NK細胞などがうまくつくられ、従来より前進した。ヒトの免疫臓器(胸腺)がかかわっていない弱点を補う工夫が必要だ」としている。
《朝日新聞社asahi.com 2006年03月20日より引用》