20180530

国立大、動き出す法人統合 傘下に複数の大学「アンブレラ方式」


2018年05月30日

一つの法人が複数の国立大を傘下に置いて運営する「アンブレラ方式」に向けた動きが各地で起きている。名古屋大と岐阜大が協議を始め、静岡県と北海道でも検討が始まった。事務作業などを効率化し競争力を磨くことを目指す大学がある一方、生き残りをかけて統合を目指す大学もある。

 

「18歳人口が減っていく中、実学を担う3大学が北海道の未来への貢献をキーワードに話し合ってきた」

札幌市で29日、小樽商科大、北見工業大の学長と記者会見をした帯広畜産大の奥田潔学長はこう話した。3大学はこの日、法人統合に向けた合意書を交わした。2022年をめどに新しい国立大学法人「北海道連合大学機構」(仮称)を作り、アンブレラ方式で3大学を運営する構想だ。

単科大の3大学は、いずれも教員数が百数十人。国から国立大に支給される運営費交付金の額も、86ある国立大の中で下から10位に入る。統合によって経営に関する業務を一元化して経費を減らし、その分を教育研究に回すことを狙う。小樽商科大の和田健夫学長は「総体としての力を発揮し、小さな大学でもこれまで以上に役割を果たしたい」と述べた。

運営費交付金の総額が抑えられるなか、法人統合を目指す動きは他にもある。名古屋大は岐阜大との統合に向けた検討を始めた。他大学にも参加を呼びかけ、「東海国立大学機構」(仮称)の設立を目指す。

名大は東海では抜きんでた存在だが、運営費交付金は約300億円で他の旧帝国大より少ない。仮に岐阜大、三重大の交付金も合計すると約540億円と、京都大と肩を並べられる。

静岡大と浜松医科大も検討を始めた。静岡大の資料によると、大学の再編も同時に行い、浜松医科大と静岡大浜松キャンパスを統合した「静岡県西部大学」(仮称)、静岡大静岡キャンパスを中心とする「静岡県中部大学」(同)を統合法人の下に置く構想。再編は3年後をめどとし、6月にも連携協議会を立ち上げたい意向だ。

 

■文科省、再編向け法改正へ

文部科学省は2001年、国立大の再編統合や法人化を盛り込んだ計画を公表した。少子化が進む中で、小規模大学が多い国立大の競争力を高める狙いで、02~03年度には24大学が12大学に統合した。だが、その後の統合は2件しか実現していない。

このため、文科省は12年に「大学改革実行プラン」で、大学統合よりハードルが低い、法人統合によるアンブレラ方式を提案した。当時は活用されなかったが、昨年初めに名大が「指定国立大法人」の申請で、アンブレラ方式の導入を盛り込んだ。名大は今年3月に指定され、東京大、京都大、東北大と並んだ。

さらに昨年6月には国立大学協会が、国立大の将来像を描いた提言の「中間まとめ」に、アンブレラ方式導入の検討を盛り込んだ。こうした動きを見て、文科省は昨年8月、中央教育審議会の部会で、連携・統合の一案として再びアンブレラ方式を紹介。「1大学1法人」と定める国立大学法人法を改正する方針を固め、来年の通常国会へ改正法案の提出を目指す。

 

■大学ごとの目標、あいまい化懸念

金子元久・筑波大特命教授(高等教育論)の話 財政的な制約が強い中、小規模の単科大のアンブレラ化には意味がある。しかし、一般にアンブレラ化は管理・経営が二重化する。また、国際水準の達成や地域貢献といった、各大学の目指す目標があいまいになる心配もある。

 

【図】

国立大学の法人統合

 

《朝日新聞社asahi.com 2018年05月30日より抜粋》

 

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