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(経済気象台)酪農に「推譲」の思想を


2018年05月15日

 

4月から、バターなどの乳製品価格が上がった。原因は原料となる生乳価格の上昇だ。

酪農の現場では、農家戸数減による生産量の減少が10年近く問題となっていて、畜産クラスター事業という補助金で規模拡大が進められてきた。酪農家は、1件10億円を超えるような投資を行っている。

数十億円、という金額は日常会話である。投資を後押しするには、乳価を上げることが必要になる。酪農家とメーカーの交渉で乳価は上昇し、生産量は回復傾向にある。

だが、ここには問題がある。整備計画の妥当性の厳密な評価、事業コスト削減の極限までの努力はなされたのか。補助金が、得てして投資金額を増額させることはよくある。高乳価がおもわぬ「ボーナス」となっている酪農家も多く、一部にはそのお金が高級車に化けている。

少し先を考えれば、次々と誕生している大規模牧場の継承問題がある。巨額資産となった牧場をだれが引き継ぐのか。酪農に魅力を感じる若者たちは少なくないが、夢はあってもお金はなく、手に入れることはできない。

若者がめざす「身の丈に合った家族経営」を実現できる余地は、狭まっている。国民は補助金という税金に加えて、製品価格の上昇も負担し、酪農を支えている。

「推譲」という言葉がある。経済は不安定なものだから、一時的に収益が上がっても偶然によるもの。だから利益は、他の人、または未来に譲ろうという報徳の考えだ。

ある酪農家は「ボーナス」で、若者たちに未来を考える力を養う勉強会を開いている。

酪農家よ。考えて欲しい。この国の酪農を次の世代につなぐために、本当に必要なお金の使い方を。(着)

◆この欄は、第一線で活躍している経済人、学者ら社外筆者が執筆しています。

 

《朝日新聞社asahi.com 2018年05月15日より抜粋》

 

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