20180420

通商、日本の思惑外れる トランプ氏、「二国間」主張崩さず 苦い歴史、対米交渉に及び腰


2018年04月20日

 

日米首脳会談で、通商問題を話し合う新たな枠組みをつくることが決まった。日本側は、米国を再び環太平洋経済連携協定(TPP)に引き込む舞台装置にしたい考えだが、トランプ米大統領が求めるのはあくまで日米自由貿易協定(FTA)につながる二国間交渉。思惑はすれ違う。▼1面参照

首脳会談直前の12日、トランプ氏がTPPへの復帰検討を閣僚に指示したことで、日本政府内の一部には、二国間交渉に固執するトランプ氏の心変わりを期待する向きもあった。11月の中間選挙に向けて確実に成果を求めるならば、「長い時間のかかるFTAよりは、TPP復帰が利益になるはずだ」。日本側の交渉関係者はそう語っていた。

だが、そんな淡い期待は打ち砕かれた。首脳会談後の記者会見でトランプ氏は「対日貿易赤字は最低でも年間690億ドル(約7兆4千億円)だ」と述べ、安倍晋三首相の前で二国間交渉への強い期待を示した。

別の交渉関係者は、茂木敏充経済再生相とライトハイザー米通商代表部代表による協議の枠組みを通じて「TPPを誤解しているトランプ氏にきちんとメリットを説明できる」と強調するが、米国側が鉄鋼関税の除外をちらつかせて有利に交渉を進めようとするのは確実だ。日本側が守勢に回る可能性は否めない。

日本が米国との二国間交渉に及び腰なのは、苦い歴史があるからだ。

高度経済成長期の1950年代から70年代後半にかけて、日本から米国への輸出が急増。70年に始まった日米繊維交渉では、日本は繊維製品の輸出の自主規制を受け入れた。

80年代に入ると、貿易赤字の急拡大が米国内で問題になった。石油危機を背景に燃費のよい日本製自動車の対米輸出が急増。81年、日本は輸出の自主規制を表明した。

80年代に米国の貿易赤字額の半分程度を占めた対日貿易赤字は、いまでは全体の9%程度に下がった。経産省幹部は「対日貿易赤字解消の議論をしても、規模が小さいため、米国のメリットは小さい。ただ、トランプ氏の公約なのでしょうがない」とため息をつく。(久保智)

■米、合意目指す「交渉」モード 細川昌彦・中部大特任教授(国際経済)

新たな閣僚級協議の米国側の担当が「交渉屋」のライトハイザー通商代表部代表になり、日本との通商問題に本気で取り組んでくるとの印象を受けた。これまでの日米経済対話の「看板の付け替え」ではない。

「交渉」モードにギアチェンジした米国に対し、日本はあくまで「協議」だ。安倍氏は「議論に臨んでまいりたい」としか言わなかった。必ずしも合意を目指すものではないとの立場だ。これに対し、トランプ氏は「協議」イコール「交渉」なので、「よい合意ができる」と言い切った。新たな枠組みは日米の「同床異夢」の産物といえる。

ただ、通商交渉とは「同床異夢」から始めて方向性をすりあわせていくものだ。ポイントは時間軸。米国は11月の中間選挙までに目に見えた成果を欲しがるだろう。日本はルール作りが目的だから時間がかかる。米国が鉄鋼関税から日本を除外しなかったことも米国の本気度の表れだ。鉄鋼関税を交渉の「人質」にできるからだ。

米国がTPPに戻ることはあり得ない。米国側の事務方が検討している形跡はなく、トランプ氏の国内向けのリップサービスだ。

米国が強く求めてくるのは農産物や畜産物の関税引き下げ。その部分だけTPP参加国と同じ税率に引き下げ、米国の自動車関税も引き下げてもらうのが妥当な線だ。ただ、安倍氏の政権基盤は弱くなっており、農業はTPPの合意内容よりも高い要求となれば、国内の抵抗勢力を抑えきれないだろう。(聞き手・南日慶子)

【写真説明】

<蜜月アピール> ゴルフ中に記念撮影をする安倍晋三首相(左)とトランプ米大統領=18日、米フロリダ州パームビーチ、内閣広報室提供

《朝日新聞社asahi.com 2018年04月20日より抜粋》

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