鳥取和牛、モ~進中 ゲノム解析導入、肉質1位に 王国復活へ、県が態勢整備【大阪】
2018年03月10日
かつて「和牛王国」と呼ばれた鳥取県。その力は一時衰えたが、近年全国でトップクラスの評価を受けている。要因の一つは、和牛の遺伝情報を解読する「ゲノム解析」だ。「鳥取和牛」のブランド確立と、王国復活を目指す。
サシが入った希少部位の「ヒウチ」が焼き網に置かれ、ジューッと音をたてる。鳥取県米子市の鳥取和牛専門焼き肉店「強小亭(きょうしょうてい)」。友人と訪れた市内の会社員中尾仁志(ひとし)さん(42)が肉を口に運び、顔をほころばせた。「脂身が甘くて、他の牛肉とぜんぜん違う」。塩だけで食べると、肉の味が引き立つという。
昨年9月、「和牛のオリンピック」と呼ばれる全国和牛能力共進会の全9区(部門)の中の7区(総合評価群)で、鳥取県代表の牛の肉質は1位の評価に輝いた。県の担当課は「『ゲノム育種価(いくしゅか)』の結果が出た」と話す。
ゲノム育種価とは、良い肉質の子を残す能力を遺伝子検査で評価する手法のこと。これまでは、実際に生まれた子牛の肉質を調べる必要があった。1頭で4~5年かかり、費用も1500万円程度とかさむ。
ゲノム育種価は、まず牛の血液や毛を採取し、3~4日かけてDNAを抽出。その溶液を「iScan(アイスキャン)」という解析機械にかければ、1日半ほどで種牛としての能力が判定できる。費用も1頭7千円で済む。
鳥取は他県に先駆けて2012年から、こうした解析を動物遺伝研究所(福島県西郷村)と共同で研究。遺伝子の本体をなすDNAのごく一部の塩基配列の違いと肉質が、どう関係しているかのデータを蓄積し、どの牛を繁殖用として県内に残すかの判断に使ってきた。県畜産試験場育種改良研究室の井上喜信主任研究員は「(データは)雄牛ならば、従来の評価方法と9割程度は一致するようになった」と話す。
しかし、近年はライバル県も解析に目を向ける。動物遺伝研究所の閉鎖後、解析を引き継いだ独立行政法人家畜改良センター(同村)は他県と競合し、使い勝手が悪くなった。
そこで鳥取県は18年度、自前で機械を買い、県畜産試験場(同県琴浦町)に研究棟なども新設して、独自の解析態勢を整える。2月の臨時県議会で可決された補正予算に、関連経費約4億9千万円を盛り込んだ。ゲノム解析機の購入は都道府県で初という。
鳥取和牛の16年の出荷頭数は約2千頭で、和牛出荷頭数の全国シェアも約0・5%と低いが、東京などの高級店で扱われている。
平井伸治知事は会見で、米国を除く環太平洋経済連携協定(TPP)を念頭に「先進的な和牛の生産につなげるため態勢をつくる必要がある」と話し、解析機械を備え、輸入肉や他産地の肉に対抗できるブランド力の必要性を強調した。(柳川迅)
■かつて「3大市場の一つ」
鳥取は昔、全国有数の牛の産地だった。江戸時代、鳥取藩は牛の購入資金を貸し付け、牛の飼育を奨励。1730年には大山(だいせん)のふもとに牛馬の売買交換市場「大山博労(ばくろう)座」が設けられ、年4回、それぞれ数千頭が取引されるなど、日本3大市場の一つと言われるまで発展した。
肉用牛の改良が始まった大正時代には、血統を記録する全国初の和牛の登録事業を開始。昭和に入ると、九州や東北など新しい産地に多くの種牛を供給した。
戦後の1966年、第1回の全国和牛能力共進会が岡山市であり、鳥取の「気高(けたか)」が産肉能力検定区で1等賞首席となった。気高は、各地のブランド牛の先祖となった。
■独自の動き、評価
神戸大・食資源教育研究センターの大山憲二教授(家畜育種学)の話 まだ子がいない個体についても、種牛としての能力を早期に判定する精度が高まる利点がゲノム育種価にはある。優秀な種牛が1頭登場するだけで、その産地はがらっと変わる。産地間競争に勝ち抜く上で、独自に分析機器を備えた鳥取県の取り組みは評価できる。
【写真説明】
第11回全国和牛能力共進会に出品された鳥取和牛=2017年9月11日、仙台市、鳥取県提供
iScan(右)と解析結果を表示するパソコン=福島県西郷村小田倉、家畜改良センター提供
【図】
戦後の鳥取和牛の歩み
《朝日新聞社asahi.com 2018年03月10日より抜粋》