20180301

(コメと生きる)広がる飼料用米:下 栽培から加工まで、地場で /山形県


2018年03月01日

コメの収穫が本格化した昨年の9月中旬、JA真室川の施設では、職員が飼料用米を牛のエサに加工する作業に追われていた。

地元のコメ農家が生もみのまま軽トラックで持ち込んだ飼料用米は、プレスパンダーと呼ばれる破砕機で細かく砕いて袋に詰める。大型の掃除機で袋の中の空気を抜き、3週間ほど発酵させるとソフトグレインサイレージ(SGS)ができあがる。

真室川町では2008年度から、地元のコメ農家が収穫した飼料用米を同JAがSGSに加工し、地元の畜産農家に販売している。同JAが町から運営を委託されている町営牧場の肉牛にも与えている。

「消化が良く、牛も好んで食べる。もみすりや乾燥をせず、もみ米のままJAが買い取るので、農家の手間も省ける」と丹康之・同JA営農販売課長補佐(38)。当初、6・6ヘクタールだったSGS用の飼料用米の作付面積は、17年度には10倍近い61・7ヘクタールに広がった。  SGSの利点は、栽培から加工までの作業がすべて地元でできることだ。

県内で飼料用米を家畜のエサに使う際、飼料用米の加工は宮城県内の飼料工場に委託しているケースが多い。コメ農家には飼料用米の収量に応じて10アールあたり5万5千円~10万5千円が交付されるが、倉庫での保管費や工場への運搬費を差し引くと、手元にはほとんど残らないという。

真室川町の取り組みでは運搬費はかからない。畜産農家には、輸入原料を使った一般的な配合飼料の半額以下の1キロ約23円で提供できるという。

ただ、コメ農家が受け取る飼料用米の買い取り価格は1キロ10円に届かず、補助金に支えられている状況に変わりはない。それでも、農事組合法人ひまわり農場(真室川町)の佐藤孝和理事(48)は「SGSがなかったら、離農する農家が後を絶たず、耕作放棄地が増えていただろう」と話す。

水田は、水の管理など共同作業が多く、それが農村の人々のつながりや文化を守ってきた側面がある。山形大学農学部の浦川修司教授(作物生産科学)は「水田には治水や景観を守る役割もあり、公共的な生産基盤と言える。それを守る方法の一つが飼料用米と考えれば、国のてこ入れも必要ではないか」と指摘する。

真室川町の肉牛は、この10年間で3倍の約700頭に増えた。今年はSGSで育てた牛を町のブランド肉として売り出す予定。丹課長補佐は「補助金に頼るだけではダメ。これからも地域で工夫を重ね、農家の所得を上げる取り組みを続けていきたい」と話す。

(井上潜)

【写真説明】

(上)プレスパンダーで加工された飼料用米は、ベルトコンベヤーを通って大きな袋に詰められる=2017年9月、真室川町

(下)ソフトグレインサイレージを食べる牛。職員がエサをやりに近づくとすぐに寄ってきた=17年12月、真室川町川ノ内の秋山牧場
《朝日新聞社asahi.com 2018年03月01日より抜粋》

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